研究実績の概要 |
前頭皮質の電場電位には、30から80ヘルツのガンマ振動が生じることがある。ガンマ振動生成には、パルブアルブミン陽性のGABA作動性FS(fast spiking)細胞と錐体細胞の相互結合が重要であると考えられている。私たちは錐体細胞とFS細胞がガンマ振動の異なる位相で発火する一方、5層錐体細胞の異なる投射サブタイプである、橋核投射(CPn, corticopontine)細胞と交叉性線条体投射(CCS, crossed corticostriatal)細胞では発火位相に違いが無いことを見つけた。そこで、この2種類の錐体細胞サブタイプはガンマ振動生成への関与が異なるか、振動時に独立して発火するのかを理解するために、これらとFS細胞の結合選択性とシナプス伝達特性を脳切片標本でのホールセル記録を使って比較解析した。CPn細胞とCCS細胞はそれぞれ、橋核、対側線条体からの逆行性蛍光標識で同定した。FS細胞との抑制性結合確率は二つの錐体細胞サブタイプで差が見られなかった。単一FS細胞がCPn細胞とCCS細胞に、発散的に抑制をかけていた。抑制性結合の短期可塑性はどちらにおいても抑圧タイプであった。抑制性結合が見られた場合、それらの結合の約半数で逆向きの興奮性結合が見られた。FS細胞からCPn細胞への抑制性電流の大きさは、抑制性結合だけの場合より相互結合の方が大きかった。二つのサブタイプからFS細胞への興奮性結合確率においても差が見られなかったが、CCS細胞からの短期可塑性の方が、CPn細胞より抑圧的であった。私たちは以前に、単一FS細胞がCPn細胞とCCS細胞から収束的に興奮を受けることを明らかにしている。これらの結果を合わせて考えると、5層FS細胞は特定の5層錐体細胞サブネットワークを抑制制御するのではなく、多様な皮質間・皮質下出力系を統合的に同期させる機能を持つことが推測された。
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