研究課題/領域番号 |
25250008
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
柿田 明美 新潟大学, 脳研究所, 教授 (80281012)
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研究分担者 |
藤井 幸彦 新潟大学, 脳研究所, 教授 (40283014)
北浦 弘樹 新潟大学, 脳研究所, 助教 (80401769)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経病理学 / てんかん / 脳神経疾患 / 神経回路 / 細胞病理学 |
研究実績の概要 |
神経細胞が高度に脱落する病態でありながら、なぜ異常な神経興奮が惹起されうるのか?内側側頭葉てんかん患者の代表的病態である海馬硬化症においては、この命題はいわば古典的パラドクスとでも呼ぶべきなぞであった。本研究は、この命題に対する明確な“解”を提供し、本症候群に対する新たな外科的治療戦略の開発に向けた重要な基礎的知見を提供することを目的とする。その研究ストラテジーの柱は、外科的に切除された生鮮脳組織を培養し光学的イメージング法でみる時空間的興奮動態の解析である。 実験予定日は手術日に規定されることから、当該年度も前年度に引き続き、同様の体制と内容で研究を進めた。すなわち、内側側頭葉てんかん患者に対する外科的焦点切除術により採取された海馬組織を対象とした。手術室から実験室に組織を搬送し、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析:すなわちフラビン蛍光イメージングと細胞外電場電位測定を行い、神経興奮の時空間的伝播パターンを解析した。同時に、生理学的解析を行った組織を固定し、組織学的解析:すなわちTimm染色や免疫組織化学染色を行い、生理学的知見と関連する神経回路網やシナプスの異常についての解析を進めた。 当該年度までに実施した研究により、海馬硬化症においては病変の程度に応じて異なった2つのてんかん原性機序が存在することが明らかとなった。そこでは、海馬歯状回における神経細胞の新生と反響回路形成が重要な役割を担う可能性が考えられた。すなわち、歯状回顆粒細胞においては苔状線維の異常発芽による反響回路が形成されていることが明らかとなった。その際、顆粒細胞層では新たな神経細胞が産出し、分子層へ移動することから、組織学的表現型としての顆粒細胞分散が生じるものと考えられた。一方、軽度の神経細胞脱落を示す海馬では、海馬支脚における神経細胞の興奮増強が生じているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験予定日は手術日に規定されることから、当該年度においても前年度に引き続き、同様の体制と内容で研究を進めた。すなわち、内側側頭葉てんかん患者に対する外科手術により採取された海馬を対象に、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析(フラビン蛍光イメージング、細胞外電場電位測定)を行い、神経興奮の時空間的伝播パターンの解析を進めた。海馬硬化症においては、海馬支脚から神経活動が開始され、歯状回を巻き込んだ異常回路網が形成されている可能性が考えられた。現在、その知見の恒常性を確認すべく検証を進めている。スライスを固定し組織学的解析(Timm染色、免疫組織化学染色)を行い、生理学的知見と関連する神経回路網やシナプスの異常について、さらに検討を重ねている。 症例の蓄積によるデータ取得は、概ね順調に経過している。方法論的にも特段困難な状況が生じていないことから、概ね順調と自己評価した。既に、海馬硬化症の進行度に応じて、2つの異なるメカニズムが存在している可能性を見出しており、更に症例を重ねることにより、信頼性の高いデータとなり得るものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、当該疾患患者が外科手術を受ける際、その切除された脳組織の一部を用いて解析を進めるものである。従って、実験スケジュールを研究者側の都合で設定できるものではなく、年次をまたいで症例の蓄積を待たなければならない。その意味で、前年度までに実施してきた研究内容を継承しつつ、より有効な効果が得られるよう工夫しつつ、個々の症例を解析していくものである。具体的には以下の計画を進める。内側側頭葉てんかん患者に対する外科手術により採取された海馬を対象に、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析(フラビン蛍光イメージング、細胞外電場電位測定)を行い、神経興奮の時空間的伝播パターンを解析する。その後、スライスを固定し組織学的解析(Timm染色、免疫組織化学染色)を行い、生理学的知見と関連する神経回路網やシナプスのいじょうについての解析を進める。
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