研究課題
神経細胞が高度に脱落した病態でありながら、なぜ異常な神経興奮が惹起され得るのか?内側側頭葉てんかん患者の代表的病態である海馬硬化症においては、この命題はいわば古典的パラドクスとでも呼ぶべき謎であった。本研究は、この命題に対する明瞭な”解”を提供し、本症候群に対する新たな外科的治療戦略の開発に向けた重要な基礎的知見を提供することを目的とする。その研究ストラテジーの柱は、外科的に切除された生鮮脳組織を培養し、光学的イメージング法で見る時空間的興奮動態の解析である。実験予定日は手術日に規定されることから、当該年度も前年度までに引き続き、同様の体制と内容で研究を進めた。即ち、内側側頭葉てんかん患者に対する外科的焦点切除術により採取された海馬組織を対象とした。手術室から実験室に組織を搬送し、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析:すなわちフラビン蛍光イメージングと細胞外電場電位測定を行い、神経興奮の時空間的伝播パターンを解析した。次に、上記の生理学的解析を行った組織をホルマリンで固定し、組織学的解析:即ち一般組織染色、免疫組織化学染色を行い、生理学的知見と関連する神経回路網やシナプスの異常についての解析を進めた。当該年度までに実施した解析結果から、海馬硬化症においては2つの異なったてんかん原性機序が存在することを明らかにした。その際、海馬歯状回における神経細胞の新生と反響回路形成が重要な役割を担うものと考えられた。即ち、歯状回顆粒細胞においては苔状線維の異常発芽による反響回路が形成されることを明らかにした。その場合、顆粒細胞層では、新たな顆粒細胞が産出し、分子層へ移動することから、組織学的表現型である顆粒細胞分散が生じるものと考えられた。一方、軽度の神経細胞脱落を示す海馬においては、これとは機序が異なり、海馬支脚における神経細胞の興奮増強が生じているものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
実験予定日は手術日に規定されることから、当該年度においても前年度までに引き続き、同様の体制と内容で研究を進めた。即ち、内側側頭葉てんかん患者に対する外科手術により採取された海馬を対象に、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析(フラビン蛍光イメージングと細胞外電場電位測定)を行い、神経興奮の時空間的伝播特性の解析を進めた。海馬硬化症においては、海馬支脚から神経活動が開始され、歯状回を巻き込んだ異常回路網が形成されることを見出した。症例数を増やし、この知見の恒常性を確認した。症例の蓄積によるデータ取得とその解析は、概ね順調に推移している。方法論的にも特段に困難な状況は生じていないことから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
本研究は、内側側頭葉てんかん患者が外科手術を受ける際に、その切除された脳組織の一部を用いて解析を進めるものである。従って、実験スケジュールを研究者側の都合で設定できるものではなく、年次をまたいで症例の蓄積を待たなければならない。そのため、前年度までに実施してきた研究内容を継承し、個々の症例から得られたデータを解析していくものである。最終年度も、以下の計画を進める。内側側頭葉てんかん患者に対する外科手術により採取された海馬を対象とし、生鮮脳スライス標本を作製し、生理学的解析(フラビン蛍光イメージング、細胞外電場電位測定)を行い、神経興奮の時空間的伝播パターンを解析する。その後、スライスをホルマリンで保定し、組織学的解析(一般染色、免疫組織化学染色、Timm染色)を行い、生理学的知見と関連する神経回路網やシナプスの異常についての解析を進める。この際、特に顆粒細胞層における神経細胞申請、反響回路形成にも着目した解析を進める。上記の実験結果を踏まえ、本研究の総括を行う。
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