研究課題/領域番号 |
25250010
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
齊藤 実 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 分野長 (50261839)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 学習記憶 / 老化 / グリア / ショウジョウバエ / 脳・神経科学 |
研究概要 |
老化の主たるリスクファクターである酸化ストレスとdPCとの相関を、より詳細に調べた。先ずdPCタンパクの発現を解析するため新たに抗dPC抗体を作成し、ウェスタンブロットにより抗体の特異性を確認した。遺伝学的に脳神経細胞で酸化ストレスを上昇させた組み換え系統では記憶障害が現れたがdPCタンパクの発現量に顕著な変化は見られなかった。逆にdPCの過剰発現系統で酸化ストレスマーカーを調べたところ、これにも顕著な変化はなかった。さらに酸化ストレスの上昇による記憶障害は加齢による記憶障害とは異なる記憶過程の障害によることも明らかになった。以上の結果から、加齢性記憶障害の発現は加齢による酸化ストレスの上昇とは因果関係を持たないことが明らかになった。また加齢性記憶障害が抑制されたdPC/+系統では顕著な寿命の延長も見られなかった。以上の結果からdPC/+での加齢性記憶障害抑制は単なる老化抑制によるものではないことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた睡眠と加齢性記憶障害の関係は、参考とした論文通りに睡眠量のコントロールが出来ないなどのトラブルがあり睡眠との関係を確かめることはできなかった。 一方、酸化ストレスは脳老化を含む老化現象の主たる要因とされてきたが、我々の結果から脳には非常に強い抗酸化ストレス機構が存在することが示唆された。これと関連した脳老化は個体老化(寿命)とは相関しないことも明らかになった。こうした発見は既存の老化の概念を変える成果と言える。
|
今後の研究の推進方策 |
グリア細胞におけるdPC の役割の立証を以下のように行う。哺乳類脳ではPCは神経細胞でなくグリア細胞に発現している。ショウジョウバエPC(dPC)もグリア細胞で特異的に発現しているか作成した抗dPC 抗体を用いて免疫染色で発現細胞を明らかにする。また実際にグリア細胞におけるdPCが加齢性記憶障害に関与しているかを確かめるため、dPC/+変異体のグリア細胞にdPC を発現させると加齢性記憶障害が回復するか?その逆に野生型のグリア細胞でdPCをノックダウンすると加齢性記憶障害が抑制されるか検証を行う。 我々は加齢体ではdPC の活性上昇によりD-セリンのセリンラセマーゼ(SR)による合成が低下したため記憶形成が障害されたとする「D-セリン仮説」を提唱している。この仮説の妥当性を確かめるため、加齢によりD-セリン合成が低下するか老齢脳を単離して集めD-Ser を高速液体クロマトグラフィーで分離同定して定量する。また最終的にSRの活性低下が加齢性記憶障害の原因であれば、野生型でSRを過剰発現させれば加齢体の記憶が改善する可能性がある。そこでこの可能性を調べる。またdPC の過剰発現体では若齢体でも老齢野生型と同様の記憶障害が現れるが、dPC過剰発現体で脳内D-セリンの定量、さらにD-セリン摂取により記憶障害が改善するかなどを検証する。
|