研究課題/領域番号 |
25250016
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畠山 昌則 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40189551)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 癌 / 感染症 / 細菌 / 炎症 / シグナル伝達 |
研究概要 |
ピロリ菌がんタンパク質CagAの主要細胞内標的分子であるチロシンホスファターゼSHP2は細胞密度に依存した細胞内局在変化を示す。低細胞密度下ではSHP2は主に核内に分布する一方、高細胞密度下では細胞質に分布する。SHP2の核内移行はRhoAの特異的阻害薬であるC3トランスフェラーゼにより阻止され、非特的キナーゼインヒビターであるstaurosporinにより増強された。これらの結果から、SHP2の細胞質―核間移行に細胞密度を感知するがん抑制シグナル経路として知られるHippo シグナル経路が関与している可能性が強く示唆された。とりわけ、SHP2の細胞内分布はHippo経路のエフェクター分子である転写ホアクチベーターTAZ/YAPの挙動ときわめて類似することから、SHP2はTAZ/YAPと複合体を作ることによりその分布が制御されるとの仮説のもと両者の相互作用を検討した。その結果、 SHP2はそのC末端領域に存在するproline-rich配列を介してTAZ/YAPのWWドメインと会合することが明らかになった。TAZ/YAP の発現を抑制することでSHP2の核内移行は阻害される一方、SHP2の発現抑制ではTAZ/YAPの細胞質ー核移行に変化は認められなかった。このことから、複合体形成を介してTAZ/YAPがSHPの核内移行を担うと結論づけられた。Hippoシグナルの活性化によりTAZ/YAPは細胞質内にとどめ置かれ、その結果SHP2も細胞質に停留する。Hippoシグナル依存的な細胞増殖の抑制にはTAZ/YAP依存的な転写の阻害に加えて、核内SHP2の機能に依存したWnt標的遺伝子の活性化阻止が関与する可能性が示唆された。YAPには複数のスプライスバリアントの存在が知られているが、興味深いことにSHP2 と結合できるのは一部のバリアント分子であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年多くの注目を集めるがん抑制シグナル経路であるHippo経路とピロリ菌がんタンパク質CagAが、SHP2チロシンホスファターゼを介して機能的にリンクすることが明らかにされたことはきわめて大きな研究成果と考える。また、SHP2を介した核内タンパク質のチロシンリン酸化―脱リン酸化制御の重要性ならびにがん化におけるその脱制御の意義に対する理解が大きく進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ピロリ菌CagAがHippoシグナル経路を介した細胞応答に及ぼす影響を明らかにするとともに、TAZ/YAP依存的に核内移行したSHP2が標的とするparafibrominのチロシンリン酸化的な機能制御機構を明らかにする。
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