研究課題
我々はTTF-1/NKX2-1をリネジ生存がん遺伝子として同定し、その生存シグナルをROR1受容体型チロシンキナーゼ(RTK)が担うことを明らかとしてきた。ROR1fl/flマウスの樹立を完了しCAG-Cre-ERとの交配を行って、タモキシフェン投与によるコンディショナルノックアウトマウスを作製した。SP-Cプロモーター制御下に肺特異的に変異EGFRを発現して肺腺癌を発症するトランスジェニックマウスを樹立し、ROR1コンディショナルノックアウトマウスとの交配を進めている。また、インビトロの機能解析では、ROR1がEGFRのみならず、種々のRTKの活性化に関連する自己リン酸化の維持に必要なことを明らかとした。ROR1のキナーゼ活性への依存性や、機能ドメイン等について検討を進めつつある。TTF-1/NKX2-1の転写制御ネットワークのシステム的理解を進めるべく、ドキシサイクリン添加により発現誘導可能な正常気道上皮株1株及び肺腺癌細胞株3株を作成した。発現誘導後の遺伝子発現プロファイルの網羅的解析データをもとに、TTF-1/NKX2-1による転写制御活性を反映する遺伝子モジュールを規定した。肺癌腫瘍組織のmRNAとマイクロRNA双方のマイクロアレイ解析データセットを用いて、患者組織中でTTF-1/NKX2-1による転写制御活性と相関する遺伝子群を同定した。また、スーパーコンピュータ上のSiGN-BNソフトウェアを用いて推定した発現制御ネットワークから、TTF-1/NKX2-1サブネットワークを抽出した。これらの検討結果と統合的に解析を進めるべく、TTF-1/NKX2-1のChIP-chip解析及びChIP-seq解析を進めつつある。
2: おおむね順調に進展している
TTF-1/NKX2-1遺伝子の生存シグナルを担うROR1受容体型チロシンキナーゼについて、コンディショナルノックアウトマウスを用いた個体レベルの機能解析と、主として生化学的解析によるインビトロの検討の双方において、順調な進捗を得ることができた。とくに、個体レベルの解析は、変異EGFRを肺特異的に発現する肺腺癌のモデルマウスの作成と相まって、ROR1によるRGFRシグナルの維持が、肺腺癌の生存において果たす役割の個体レベルでの検証に目途が立った。また、インビトロの解析も順調に推移しており、ROR1がEGFRのみならず種々のRTKの活性維持に関わることが明らかとなったが、これはROR1のがん治療における分子標的としての重要性を示唆する結果である。TTF-1/NKX2-1遺伝子の転写制御ネットワークについて、システム生物学的なアプローチを駆使して、その全体像を解明すべく研究を進めることによって、今後の詳細な実験的検証につなげるに値する興味深い成果を得ることができた。
ROR1のコンディショナルノックアウトマウスと、肺特異的に変異EGFRを発現する肺腺癌モデルマウスの交配を遂行中であり、変異EGFRによる肺腺癌の発生においてROR1が果たす役割について、今後さらに強力に個体レベルでの検討を推進する。また、ROR1がEGFR以外の種々の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の活性化状態の維持に関与するという新知見は極めて新規性が高いものであるとともに、画期的な治療法の開発につながる基盤情報となる可能性がある。現在推進中の分子機序の解明を目指した検討を、今後さらに一層加速させる予定である。TTF-1/NKX2-1の転写制御ネットワークのシステム的理解については、本年度に得られたシステム生物学的な知見を基盤として、TTF-1/NKX2-1の上流及び下流に推定された遺伝子群から、とくに肺がんの発生・進展への関与が示唆される遺伝子を抽出していく予定である。その上で、TTF-1/NKX2-1との相互の制御関係について実験的に詳細な検証を行うのみならず、その制御関係が肺癌の発生・進展において果たす機能的な役割の解明を目指した検討を進めたいと考えている。
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