研究課題
昨年度私共はWnt5aの翻訳後修飾を質量分析法によって明らかにした。本年度は、極性化した上皮細胞においてWnt5aはクラスリンとAP-1を介して側底部へ分泌されることを見出した。また、Wnt5aの発現抑制によるMDCK細胞のシストにおける内腔形成の遅延に対して、頂端側に分泌されるWnt5a変異体(Wnt5aL68N)の発現ではレスキューできないが、側底側に分泌される野生型のWnt5aによってレスキューされた。さらに、極性化されたMDCK細胞においてWnt5a受容体のFz2とRor2受容体が側底側に局在することを見出し、側底側においてWnt5aシグナルが活性化されるとFAKとPaxillinのリン酸化やRac1の活性化が促進されることを明らかにした。昨年度、Wnt5aと受容体の結合を阻害する3種類の化合物を見出したが、これらの化合物のIC50は0.9~2.8 μMであった。Wnt5a高発現胃癌細胞であるKKLS細胞に対して化合物による浸潤能への抑制効果をinvasion assayを用いて検討したところ、10μMの濃度において3種類の化合物はいずれも浸潤能を抑制した。Wnt5a/Ror2のシグナルを検出するS/B比の高いレポーターシステムを構築するため、Ror2-LRP6キメラ遺伝子およびSuperTopflash遺伝子を安定に発現するCHO細胞株を樹立した。この細胞株で内在性に発現するWnt5a受容体であるFz2をsiRNAによりノックダウンすることにより、Wnt5a依存性レポーター活性は有意に減弱した。塩野義製薬と共同研究した抗Wnt5aモノクローナル抗体もついては、エピトープ部位をペプチドアレイ法により同定し、モノクローナル抗体がWnt5aによる受容体エンドサイトーシスを阻害することを明らかにした。さらに、本抗体は胃癌細胞のマウスでの転移能を抑制することを示した。
2: おおむね順調に進展している
これまでにWnt5aタンパク質の翻訳後修飾の実体やその生理機能の詳細は明らかにされていなかった。本研究により、Wnt5aに付加される脂質や糖鎖修飾を同定して、上皮細胞におけるWnt5aとそれらの受容体の極性輸送の上皮細胞における意義が明らかになった。すなわち、側底側にWnt5aが分泌されると、FAKとPaxillinのリン酸化やRac1の活性化を介して細胞-細胞外基質接着が促進されることにより、MDCK細胞のシストにおける内腔形成が促進されることが明確になった。一方、本年度開発したRor2-LRP6キメラ受容体を用いたWnt5a依存性βカテニン/TCF特異的レポーターアッセイ系はS/B比が100程度あり、CV(Coefficient of Variation)値も10%以下であったので、384穴プレートを用いたハイスループットスクリーニングにおいてdataのバラつきを低くできることが期待される。これまでと比べて、質の高いスクリーニング系になると考えている。抗Wnt5aモノクローナル抗体のエピトープ部位は、以前私共が作製した抗Wnt5aポリクローナル抗体のエピトープ部位と立体構造上空間的に近い位置に存在することが判明した。このことは抗Wnt5aモノクローナル抗体が抗Wnt5aポリクローナル抗体と同様にWnt5aによる受容体エンドサイトーシスを阻害した結果とも合致し、抗Wnt5aモノクローナル抗体が中和抗体として作用することがさらに決定的となった。
Wnt5bはWnt5aのホモログであるが、その機能は未だ判然としていない。Wnt5bの翻訳後修飾を質量分析法により解析した結果、Wnt5aと同様に、Wnt5bには2箇所のアスパラギンに高マンノース型と1箇所のアスパラギンには混成型の糖鎖が修飾されていることを見出している。また、Wnt1の精製法の確立や翻訳後修飾と細胞外分泌の関連を解析している。そこで、これらのWntの細胞外分泌と受容体との結合や細胞外分泌に違いがあるかを系統的に解析し、糖鎖修飾や脂質修飾によるWntの機能発現制御を明らかにする。また、本年度新たに構築した新規のレポーターシステムを用いてスクリーニングを進めていきたい。このアッセイ系はS/B比が高くシグナルを検出するまでの手順も簡便なため、大規模のスクリーニングも可能であるが、luciferase遺伝子の発現を指標とするため、細胞内のシグナル伝達経路を阻害する化合物もスクリーニングで選択される可能性がある。そのため、この系で見つかってきた化合物を、Wnt5aと受容体との結合をELISA法で検出する系やDvlのリン酸化などの系を用いて、二次スクリーニングすることにより特異性の高いWnt5a-受容体結合阻害化合物を選択する予定である。本年度、抗Wnt5aモノクローナル抗体のエピトープ部位の同定と抗Wnt5aモノクローナル抗体のWnt5a高発現癌細胞株に対する中和活性の作用機序は解明された。ある種の癌はWnt5a依存性に増殖することが明らかになってきており、今後は抗Wnt5aモノクローナル抗体のWnt5a高発現癌細胞株に対する増殖阻害効果についても検討していく。
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