研究課題
本年度は、相同組換え反応にヒストンH1のサブタイプが与える影響を試験管内において解析を行った。そのために、体細胞で発現が確認されている6種類のH1および生殖細胞で特異的に発現しているH1Tをリコンビナントタンパク質として発現・精製を行った。これらのH1サブタイプを試験管内再構成系により調製した再構成クロマチンに加え、相同組換え反応のクロマチン基質を調製し、リコンビナーゼであるRAD51およびクロマチンリモデラーであるRAD54を添加して相同組換え反応を行った。その結果、基質となるクロマチンに体細胞型のH1が存在する条件下では相同組換え効率は著しく低下するが、生殖細胞型のH1Tが存在しても相同組換えが阻害されないことを発見した。このことは、H1Tが結合したクロマチンの構造は体細胞型のH1が結合したクロマチン構造とは異なり、相同組換えを許容する特殊な構造であることを示唆した。また、ヒトにおいてリコンビナーゼには、体細胞および生殖細胞の両方で働くRAD51および生殖細胞のみで発現しているDMC1が存在している。なぜRAD51に加え、生殖細胞での減数分裂期組換えにおいてDMC1が必要なのかは明らかになっていない。この点を解析するためには、生体内の状況を模倣したクロマチンでの相同組換え反応の解析が急務である。そこで本年度では、RAD51およびDMC1による相同組換え反応を、再構成クロマチンを用いて行う実験系の構築を行った。現在、RAD51とDMC1の、クロマチンにおける作用機序の違いを明らかにするべく解析を進めている。さらに、DNAの二重鎖間が架橋される損傷を修復するFanconi貧血原因遺伝子産物群による鎖間架橋修復機構の解析を行った。その結果、このDNA損傷修復に関わる2つの因子RPAおよびFAN1の作用機序の詳細を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
概要に記述した通り、当初の研究計画は順調に進んだため、相同組換えによるDNA修復系路を活性化することが知られている、紫外線によるDNA損傷修復機構についての研究も並行して始めた。私たちの皮膚の細胞は恒常的に紫外線に曝露されているため、紫外線によるDNA損傷は極めて頻度の高いものである。しかし、紫外線による損傷がクロマチン中でどのように存在しているのか、特に構造的な知見は皆無であった。そこで、我々は紫外線により生じるDNA損傷である6-4光産物およびシクロピリミジンダイマーが、ヌクレオソームを形成しているDNA中に存在し得るのかを生化学および構造生物学的に解析を行った。損傷を含むDNAを化学合成し、そのDNAを用いてヌクレオソームを試験管内再構成した。その結果、どちらの損傷も安定にヌクレオソーム中のDNAに取込まれることを明らかにした。これらの結果は、紫外線によるDNA損傷がヌクレオソーム上でも起こりうることを示し、それらがヌクレオソーム構造ひいてはクロマチン構造の崩壊を引き起こすものではないということを示す重要な結果である。本結果に基づき、これらの損傷を認識するタンパク質が、どのようにしてヌクレオソーム中のDNA損傷を認識するのかを現在解析しているところである。上述した成果は、当初の計画を上回るものである。
試験管内再構成系を用いて、クロマチンにおける相同組換えの分子機構を明らかにする。まず、DMC1とRAD51の作用機序の違いを明らかにすることで、なぜ減数分裂期組換えにDMC1が必要であるのかを明らかにする。さらに、ヌクレオソーム上での紫外線によるDNA損傷修復機構を、損傷を認識するタンパク質のヌクレオソームDNA上での損傷認識機構から明らかにする。また、これまでヒトのタンパク質を中心に生化学的解析を進めてきたが、個体レベルでの遺伝学的解析が可能である植物のクロマチンにおける相同組換え反応系を研究対象に加える。そのために、植物のクロマチンを試験管内再構成する系およびその相同組換えを触媒する因子群をリコンビナントタンパク質として精製する系を確立する。さらに、相同組換えに関わる因子のX線結晶構造解析を進めていき、構造的な視点からも相同組換えの分子機構を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件)
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