本研究の目的は、動物個体を構成する個々の細胞や組織についてのゲノム科学研究に必要なゲノムデータ生産と情報解析に関する基盤技術の確立を目的としている。このためにはさまざまな要素技術の開発と評価が必要であり、さらに装置類の開発状況も視野に入れながら本年度の研究を実施した。上記の目的を達成するために必要なステップとして、本年度は以下の4項目を中心に研究を実施した。(1)-(3)は、単一細胞のゲノム解析に必要な基礎技術の開発である。また、(4)については、世代経過時に、親の生殖細胞ゲノム中に新たに出現し仔に伝えられる、微少な変異を検出するために必要な全ゲノム解析手法の検討である。 (1)最小規模の組織から全ゲノム及びトランスクリプトーム情報を取得するために必要となる試料の前処理条件の検討を、マウス脳切片の一部をモデルに用いて実施した。今後の研究で使用する実組織としては、固定化組織及び非固定凍結組織の両方が考えられるため、その各々についてDNA及び全RNAの抽出プロトコルの検討と抽出後の試料を用いての評価、単一細胞分離条件の検討を行った。 (2)哺乳動物初期発生の新たなモデル動物となる可能性のある有袋類(ワラビー)を用い、全ゲノム参照配列の高度化及び初期胚発生時の胚全体または特定部位における経時的遺伝子発現の追跡実験を行った。 (3)上記に必要な情報処理プロセスの検討を行った。 (4)チンパンジートリオを用いた一世代経過時の新規変異部位の検出と同定および変異率の高精度推定を行った。
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