研究概要 |
有性生殖の意義は生物学における長年の課題であるが、モデル生物の線虫C.elegansグループに最も近い種であるDiploscapter coronatusは長期にわたり単為生殖のみで進化してきた可能性が出てきた。そこで、単為生殖のゲノム基盤を明らかするために本線虫のゲノム解読を進めた。 単一個体から増殖した混合時期の虫体からDNA及びmRNAを調製し、ゲノムアッセンブル、トランスクリプトーム解析を行った。ゲノムについては、総延長178Mb、N50Scaffoldは979Kb、最長Scaffoldは3.54Mb、N50Contigは459Kb、最長Contigは1.74Mbを得た。178Mbのアッセンブルのうち122Mbには互いに似ているが同一ではないパートナー配列(平均94%相同)が見出された。細胞核のDNA量をFACSを用いて測定したところ、約140Mbの値が得られた。これがほぼアッセンブル全長に近い値であったことと、この線虫が単為生殖をすることから、互いに似ているが同一ではない約90Mbの半数体ゲノムのペアであることが推定された。また、分裂期染色体のDAPI染色の予備的な結果から、半数体ゲノムは1本であることが示唆された。mRNAからは従来法によるEST解析40万本とイルミナによるmRNA-seq 1.4億本を得、約37,000遺伝子を予測した。このうち約29,000遺伝子がC.elegansの遺伝子約16,000と高い相同性を持ち、その多くでD.coronatus2遺伝子と C.elegans1遺伝子がオルソログ関係になっていた。このことは、単為生殖によって組み換えのない形で半数体ゲノムが独立に変化してきたため(いわゆるMesselson effect)と考えられる。現在、ペア遺伝子間での発現量の違いと機能との関係など、その詳細を解析中である。
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