研究課題
基盤研究(A)
1.ABCトランスポーターの多剤認識メカニズムの解明:好温性の真核生物Cyanidioschyzon merolae由来のABC多剤排出トランスポーターCmABCB1の「内向型状態」構造について、最高2.4オングストローム分解能での立体構造決定ができた。その際、ABCトランスポーターの代表的基質ベラパミルを基本骨格として合成した特異的阻害剤は、結晶化の再現性向上に対して有効であることが判明した。したがって、この阻害剤はCmABCB1との複合体の結晶中に取り込まれていることが示唆された。しかし、電子密度からその結合位置を決定することはできなかった。一方、立体構造から基質結合部位と予想されるアミノ酸残基を推定し部位特異的変異を導入した。そして、得られた変異体の活性を解析することによりそれぞれのアミノ酸残基の基質排出との相関を明らかにした。その結果、基質結合に関わる疎水性でかさ高いアミノ酸残基を同定することができた。2.ABCトランスポーターの基質排出輸送の仕組みの解明:「外向型状態」を形成しやすいように改変したABCトランスポーターを調製することができた。また、基質の取り組み口と基質の排出口と思われる部位を構成する特徴的なアミノ酸残基に変異を導入し、得られた変異体の活性を解析したところ、基質取り組み口のドアの開閉を司っていると考えられる残基を同定することができた。3.ABCトランスポーターのメカニズムに基づいた新規阻害剤の設計と合成:CmABCB1に分子の外側から結合する新規阻害剤との複合体の結晶構造決定に成功した。その結果、ユニークな新規阻害剤の結合様式が判明した。また、反応速度論的な実験から、阻害剤は、基質結合をアロステリックに抑制していることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
極めて難易度の高い膜タンパク質の結晶を初めて調製することに成功し、その立体構造をX線結晶構造解析を用いてABCトランスポーターとしては過去最高の分解能(2.4オングストローム)で決定することができた。これまで構造解析されて来たABCトランスポーターは原核生物由来のため、薬理学的な性質が哺乳類のものとは全く異なり、良いモデルとは言えなかった。一方、マウス以来のABCトランスポーターの結晶構造は3.8オングストローム分解能で決定されたに過ぎず、その構造からメカニズムを論じることは難しい状況であった。したがって、本研究において構造決定したABCトランスポーターは、薬理学的な性質がヒトのP糖タンパク質と良く似ており、いまだ立体構造が不明のヒトP糖タンパク質のモデルとして非常に有用であると考えられる。さらに、このABCトランスポーターに対するユニークな阻害様式の特異的阻害剤を作り出すことに成功した。この種の阻害様式は、これまで全く例がなく、薬物設計の指針作りに有益であると考えられる。
昨年度の研究により、ABCトランスポーターの代表的基質ベラパミルを基本骨格として合成した特異的阻害剤は、CmABCB1との複合体の結晶中に取り込まれていることが示唆されたが、その位置を決定することはできなかった。そこで、CmABCB1と共有結合を作る化合物の作成を実施することにより、化学量論的に結合している複合体の結晶化を実施することが対策として考えられた。
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Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 111 ページ: 4049 - 4054
10.1073/pnas.1321562111
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2013_1/140220_1.htm