研究課題/領域番号 |
25251006
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 博章 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (90204487)
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研究分担者 |
渡辺 文太 京都大学, 化学研究所, 助教 (10544637)
中津 亨 京都大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (50293949)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体膜 / 構造機能相関 / 受容体 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
1.ABCトランスポーターの多剤認識メカニズムの解明 昨年度立体構造を決定できた好温性の真核生物Cyanidioschyzon merolae由来のABC多剤排出トランスポーターCmABCB1の「内向型状態」構造をもとに基質のドッキングシミュレーションを行い、基質結合部位を探索した。その結果、CmABCB1分子内部の巨大な空洞の天井付近に結合する位置を見いだした。また、共有結合を作ることで化学量論的に結合可能な阻害剤を用意し、CmABCB1との複合体を調製して結晶化を実施した。その結果、最高3.0オングストローム分解能でのX線回折を示すことが判明した。 2.ABCトランスポーターの基質排出輸送の仕組みの解明 昨年度の研究により「外向型状態」を形成しやすいように改変したABCトランスポーターである変異型CmABCB1とATPアナログであるAMP-PNPとの複合体の結晶化を行った。その結果、新たな形状の結晶が得られた。予備的解析の結果、「外向型状態」の構造をしているものと示唆された。 3.ABCトランスポーターのメカニズムに基づいた新規阻害剤の設計と合成 CmABCB1に分子の外側からCmABCB1結合する新規阻害剤を見いだしたことを基に、その阻害剤とCmABCB1の阻害様式を調べた。その結果、輸送基質ローダミンと拮抗的に阻害を示すことが判明した。また、同様の阻害を示す類似化合物についてもCmABCB1との複合体の結晶を作成し、結晶構造解析を実施した。その結果、同じように分子の外側からCmABCB1に結合していることが示唆された。この阻害剤は、「外向型状態」を形成しやすい変異型CmABCB1とは結合しないことから、「内向型状態」に特異的に結合するものと示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トランスポーターのメカニズムを解明するためには、いわゆる「内向型状態」と「外向型状態」の両方の立体構造を同一の分子で決定することが重要である。しかし、ABCトランスポーターにおいては未だ達成されていない。すなわち、異なる分子の両状態を比較してもアミノ酸配列の違いが障害となり、構造変化を制御する部位を特定することは不可能であり、ABCトランスポーター研究を阻む原因となっている。我々は今年度、「内向型状態」に続き「外向型状態」の結晶化にも成功したことから、両状態を同一の分子で比較することが初めて実現するものと期待される。両状態の構造比較が実現すれば、なぜ、輸送方向が一方向に限定されるのか、両状態間での基質親和性の違いをどのように制御しているのか、など未解明の謎を分子構造から解明することが可能となるものと期待される。未だ構造決定には至っていないが、予備的解析からは、構造解析が順調に進むものと判断される。これは、予想外に研究が進展することを期待させる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
ABC多剤排出型トランスポーターのメカニズムの解明には、基質の輸送経路を明らかにすることが必要である。そこで、基質あるいはそのアナログとの複合体の結晶化に挑んで来たが、それら化合物が結晶中に含まれていても、結合位置を特定できるような明瞭な電子密度が観測されないという結果が続いている。今年度は、トランスポーター分子中に含まれる化合物の濃度を確実に上昇させるために、それら化合物を共有結合させることで化学量論的に1:1の複合体を調製することができた。しかし、その複合体の結晶構造解析を実施したところ、比較的分解能の高い結晶が得られたものの、その空間群と格子定数は基質を含まない場合と良く似ており、成功の可能性はあるが、一方で、複合体形成には新たな対策の必要性が示唆された。そこで、二量体分子であるCmABCB1には、基質結合部位が2ヶ所存在する可能性があることを考慮し、実際に機能しているのはそのうちの一方のみである可能性を調べるなどの対策を立てることにした。
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