研究概要 |
炎症巣に存在する様々な細胞群は多様なストレスを受けた状態であり、ストレス応答シグナルは、この炎症の適切な維持と収束に重要な役割を担っている。従って、ストレスシグナルの破綻は炎症慢性化の要因となる。本研究では、酸化ストレスなどのストレスシグナルの分・時間単位の持続的活性が、小胞体ストレスや細胞自律的な炎症状態の増幅を介して日・月単位の持続的組織炎症に寄与する可能性と機序を明らかにするとともに、慢性炎症を発症要因とする疾患モデルにおけるストレスシグナルの重要性と機序について検証し、ストレスシグナルによる炎症制御の新たな分子機構の解明を目指している。本研究の成果としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子産物であるSOD1が、亜鉛欠乏を小胞体ストレスに変換する分子スイッチとして働くという新たな機構を明らかにした点である(Molecular Cell, 2013 in press)。本成果は、慢性皮膚炎や肝線維化の原因となる亜鉛欠乏を介して、小胞体ストレス誘導性の慢性炎症が惹起され、ALSなどの神経変性疾患の病態と深く関わる可能性も示唆し、その新たな治療戦略の開発に繋がると考えられる。また、酸化ストレス応答キナーゼASK1の活性化を調節する新たな因子として、ASK1特異的なユビキチン化酵素の同定にも成功し、当研究室で以前同定した脱ユビキチン化酵素USP9Xとともに、ASK1の持続的活性化の制御に寄与することを見出している。このように、ストレスシグナルの持続的活性化のバランス制御の仕組みが、慢性炎症の病態にとって重要である可能性を示す結果を幾つか得ることができた。
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