研究課題
本研究課題では、小胞体ストレスセンサーから発信される様々なシグナル経路の解析を行い、生命現象の中での小胞体ストレス応答の重要性を分子レベルで解き明かすことと、この系の破綻によって生じる慢性炎症性疾患などの疾患発症の分子機序解明を目指している。今年度は以下のことを明らかにした。1)小胞体ストレスセンサーLumanは、破骨細胞の多核化のステップで細胞膜融合に関わるDC-STAMPを転写レベルで誘導すること、ならびに小胞体からゴルジ装置への移行を促進させることで細胞分化を進めていることがわかった。2)小胞体ストレスセンサーBBF2H7のプロモーターにSOX9が作用し転写制御を受けること、SOX9-BBF2H7経路の活性化が軟骨細胞の分化に必須であることを明らかにした。3)OASISファミリーおよび小胞体ストレス関連転写因子群の結合を免疫沈降法あるいはtwo-hybrid法で調べた結果、OASIS-XBP1、BBF2H7-ATF6、AIbZIP-OASIS間で直接結合することがわかった。それらの結合により転写に影響を受ける遺伝子も一部解明できた。4)褐色脂肪細胞の分化に際し、小胞体ストレス応答のひとつのブランチであるIRE1-XBP1経路が特異的に活性化し、UCP1遺伝子の転写を促進することで細胞の機能獲得に働いていることを明らかにした。4)固形癌の多くでBBF2H7は活性化し、その小胞体内腔ドメインが細胞外に分泌されていることが明らかとなった。さらにその分泌断片は癌細胞に作用してヘッジホッグシグナルを活性化することで細胞増殖を促進させていることも解明できた。その他、小胞体ストレスセンサーの生体内での機能や疾患との関連を明らかにするため、Lumanコンデショウナルノックアウトマウスや各種トランスジェニックマウスとの交配で得られる遺伝子改変マウスの作成に成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では以下の3つの主要な課題に取り組む計画である。1)小胞体ストレスセンサーの生理機能とシグナル経路、2)慢性炎症における小胞体ストレス応答の役割、3)小胞体機能調節薬開発のためのスクリーニング系構築。本年度は3年計画の2年目であった。小胞体ストレスセンサーOASIS、BBF2H7、Luman、AIbZIPの生理機能を遺伝子改変マウスの解析やマウスから得られた細胞等を用いた解析からこれまで知られていなかった新たな機能を明らかにできた。また、大腸炎や固形癌発症の際に小胞体ストレス応答が炎症の増幅や細胞増殖に働くことが明らかになり、小胞体ストレスセンサーがそれら疾患の新たな治療ターゲットになり得ることがわかった。特にBBF2H7の小胞体内腔ドメインは細胞外に分泌され癌細胞の増殖に働くことが解明できたことで、分泌されたBBF2H7の小胞体内腔ドメインの活性中心部位(ヘッジホッグおよびその受容体であるPtch1との結合部位)を認識するモノクローナル抗体は抗癌作用をもつ抗体治療薬になり得ることを示せた。
これまでの成果を基盤にしてさらに小胞体ストレスセンサーおよびその下流のシグナルの詳細を解明するとともに、疾患発症との関連性を詳細に解析する。特に癌化におけるBBF2H7やAIbZIPの働きを明らかにしていくとともに、それらの機能を制御する薬物開発を目指す。その他、LumanやOASISのコンデショウナルノックアウトをはじめとする遺伝子改変マウスが前年度までに作成できているので、その解析を進め、褐色脂肪組織や中枢神経系におけるそれぞれの働きを明らかにしていく。また、新たな小胞体の機能としてmulti-vesicular body形成とexosome分泌がPERKの活性化によって生じることがプレリミナリーな実験からわかってきているので、その分子機構の詳細を明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 3件)
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