研究課題/領域番号 |
25251016
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野地 博行 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00343111)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 1分子計測・操作 / 分子モーター / ATP合成 / 表面増強ラマン |
研究実績の概要 |
ATP合成酵素は、分子モーターとして最も解析と理解が進んだモデルタンパク質となった。理論物理、計算化学者なども巻き込んだ1大分野を形成している。しかし、その機能解析は主として回転運動計測に偏っており、肝心のトルク発生ユニットの構造変化直接計測、触媒部位の化学状態計測、プロトン輸送活性計測はまだ粗い計測しかなされていないため、最も基本的な反応スキームですら研究者によって意見が異なる状態にある。本研究は、上記の新しい1分子計測技術を開発・確立・活用することで、ATP合成酵素の機能解析に新しいブレークスルーをもたらし、他のタンパク質の機能解析にも道筋を付けることにある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記目的のために、本研究では主に以下の3つのプロジェクトを推進している。 1:トルク発生ユニットβの構造変化直接計測 2:ラマン顕微鏡を用いたF1の化学状態直接計測 3:Foのプロトン輸送活性計測1分子計測 なかでも、1と3において大きな進展があり、本プロジェクトが目指していた目標をほぼ達成したのでいかに簡単に報告する。βの構造変化計測では、当初検討した蛍光標識したアクチン線維を接続した系から、金ナノロッドを用いた系に変更した。そこで、まずナノロッドのもつユニークな異方性散乱を利用した角度変化計測の系を開発した。μ秒の時間分解能で1°以下の角度決定制度を持つ計測系の開発に成功した(Enoki et al. Anal. Chem. 2015として発表)。これをβの計測に応用したところ、結晶構造から予想される運動が検出され、しかもその運動は一方向性が高く、発生するトルクも30-60pNnmに達することが分かった。H27年度発表を目指して詳細を解析する。また、プロトン輸送活性計測においても、脂質二重膜で封をしたフェムトリットルチャンバーの開発に成功し、さらにそこにATP合成酵素を1分子だけ再構成した系を用いて1分子のプロトンの能動輸送活性計測に成功した(Watanabe et al. Nat. Comm. 2015)。ラマン顕微鏡を用いた計測は、H26年度は顕微鏡自体の立ち上げに集中した。すでに、レーザー視野顕微鏡と表面増強ラマンイメージングを融合したシステムの開発に成功した。今後、実際の計測に取り組む
|
今後の研究の推進方策 |
①トルク発生ユニットβの構造変化直接計測;H27に達成したナノロッドを用いたβサブユニットの構造変化計測系を用いて、その運動の詳細解析を行う。特に、βの構造変化に伴うエネルギー散逸量を見積もることで、構造変化前後の自由エネルギー変化量を実測する。これと反応スキームを照らし合わせることで、各化学状態変化でどれだけのエネルギーが放出されるのかを見積もる。 ②ラマン顕微鏡を用いたF1の化学状態直接計測; H27年度に確立したラマン顕微鏡イメージングを利用して、F1の触媒反応を計測する。ただし、ATPそのものでは信号が弱いことが予想されるため、アデニン環やγリン酸にラマン用の化学プローブであるアルキンを導入した基質アナログを各種検討する。 ③Foのプロトン輸送活性計測1分子計測;H27年度は世界に先駆けてプロトンの揺動輸送計測に成功したが、最終目標は回転との同時計測である。現在、極めて厚みが薄いチャンバーの開発に取り組んでおり、これを用いて脂質二重膜に再構成したATP 合成酵素の回転とプロトン輸送の同時計測にチャレンジしたい。一方で、酵素の再構成方法や脂質二重膜の安定性に問題があるため、引き続き手法の改善にも取り組んでいく。
|