3つの多機能多ドメイン蛋白質システムをターゲットとして、リンカーなどの構造可塑性(ア ロステリック効果)を通じてどのように複数の機能ドメインが相関し、機能統合を実現できる のか、理論的に明らかにすることを目指した。3つのターゲットは、1)多機能性転写因子p53、2)染色体複製開始因子DnaA、3)MAP キナーゼ・シグナル伝達のscaffold 蛋白質Ste5である。 最終年度である今年度、主たる残った課題であった染色体複製開始因子DnaAに関して、昨年度までに粗視化シミュレーションにより構築した複製開始複合体構造モデルを全原子化し、その後全原子分子動力学シミュレーションを継続することで近原子分解能の構造モデルを得ることに成功した。また、九州大学の生化学実験の結果をもとに、様々な変異体oriCを計算機上に用意しその各々について複製開始複合体モデル構造を作成し、実験結果と照合した。計算と九州大学の生化学実験を総合して、学術論文にまとめ、Proc. Natl Acad. Sci. USA に発表することが出来た。 また、計算と実験の比較からのフィードバックとして、粗視化モデルを改良した。改良点は多数にわたるが、特にDNAのモデルとして塩基配列依存的な2本鎖B型DNAの曲がり等の物性を反映できる3SPN.2Cモデルと我々の蛋白質粗視化モデルの融合計算を可能にすることが出来た。この新規計算手法により、DNA上の転写因子等の蛋白質の拡散運動、蛋白質に起因するDNAの曲がりなどを詳細に取り扱うことが出来るようになった。我々が開発している粗視化シミュレーションソフトウエアCafeMolは、着実に更新されており、最新版3.0を2016年度8月末に公開し、多くのユーザーに利用されている。
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