研究課題
動物の胚発生においてモルフォゲンWntは、細胞間隙に分布し勾配をつくって作用するとされているが、分布そのものの分子メカニズムについては不明な点が多い。我々はヘパラン硫酸(HS)とその修飾前の前駆体糖鎖であるヘパロサン(Hn)の細胞膜上にクラスターを形成して点状に存在することを見出した。これらをHSクラスターとHnクラスターと呼ぶ(本研究課題の申請書にはN-sulfoとN-acetylヘパラン硫酸ナノ構造HSNSsと記載)。HSクラスターとHnクラスターは、Wntの分布とシグナル受容やその分泌性結合蛋白質であるsFRPファミリーのFrzbの分布に関わることを示唆した。前年度(H25年度)において、HSクラスターとHnクラスターのコア蛋白質の候補としてglypican (Gpc) が予想されたので、H26年度とその繰越予算によるH27年度においては、原腸胚期に発現するgpc4とgpc5について検討し以下の点を明らかにした。アフリカツメガエル胚へのgpc4とgpc5のmRNAあるいはアンチセンスモルフォリノオリゴ(MO)の顕微注入実験により、Gpc4はHSクラスターとHnクラスターの形成に、Gpc5はHSクラスターの形成に関与することが示された。この点をさらに検討するため、HnからHSへの修飾の第一段階であるN-sulfonationを触媒する酵素Ndst1をクローニングし、発現させた結果、内在性のHnクラスターがHSクラスターへ変換することが示された。そこでgpc4とndst1 mRNAを共発現させたところ、Gpc4の発現によって形成されたHnクラスターはNdst1によりHSクラスターへ変換することが示された。以上の結果より、HSクラスターとHnクラスターのコア蛋白質としてGpc4とGpc5を同定した。
2: おおむね順調に進展している
HSクラスターとHnクラスターのコア蛋白質の同定が本研究課題の1つの主たる目的であり、そのための方策として(1)免疫沈降による質量分析、(2)候補蛋白質の解析、を目論んでいたが、(2)の方策によりglypicanを同定できたことで大きく進展した。一方で、(1)から得られると期待されるコア蛋白質以外の付随蛋白質に関する情報が得られなかった。
HSクラスターとHnクラスターのコア蛋白質が同定されたことで、今後は両クラスターの性質の違いを比較検討する。1つは細胞内への取り込みの程度、2つめはWntシグナル伝達に対する役割、などである。次にWnt以外のリガンドやそれらの結合蛋白質に対するHSクラスターとHnクラスターの役割の違いを検討する。リガンドとしては、TGFβスーパーファミリーのBMPやNodal、FGFファミリーなどを予定している。
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Nat. Commun
巻: 5 ページ: 4322
10.1038/ncomms5322
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/lmb/public_html/index.php?Home