研究課題/領域番号 |
25251031
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠崎 和子 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30221295)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物 / ストレス / 発現制御 / 転写因子 / 翻訳後調節 |
研究概要 |
シロイヌナズナの細胞伸長に関与する遺伝子発現を制御する転写因子PIFと光合成関連遺伝子の発現を制御する転写因子GLKに関して解析を進めた。PIF4遺伝子の発現に関して定量PCR法で詳細に解析した。PIF4遺伝子は、昼に発現が強まり夜は低下する概日リズムを示した。また、シロイヌナズナに乾燥ストレスと低温ストレスを加えるとPIF4遺伝子の発現は低いレベルまでに低下した。しかし、高濃度の塩やマンニトール、ABAによる処理では発現の低下は観察されなかった。これらの発現制御は、相同性遺伝子であるPIF5でも同様の傾向が観察された。 そこで、これらの遺伝子発現を制御するシス因子の同定を目指し、PIF4遺伝子のプロモーター解析を行った。様々な長さのPIF4プロモーター断片を結合したGUS遺伝子を発現する形質転換シロイヌナズナを作出し、概日リズムや乾燥による応答性を定量RT-PCR法で解析した。その結果、PIF4及びPIF5のプロモーターで共通に保存している領域が、これらの応答性を制御するシス因子を含むと考えられた。そこで、この領域をベイトとして、酵母のワンハイブリッドスクリーニング法により、転写因子をコードするcDNAを単離した。プロトプラストを用いた一過的発現系により、単離された転写因子がPIF4プロモーターの転写を制御できるか検証するため、プロトプラストを用いたトランジェントの系を作出した。 一方、GLK転写因子の関与が予想される乾燥ストレスによる光合成遺伝子の転写抑制機構の解明を進めるため、シロイヌナズナを用いてこれまでに行ったマイクロアレイ解析のデータをRNAゲルブロット法や定量PCR法で検証した。GLK転写因子と相互作用するタンパク質を単離・同定するため、GLK-GFP融合タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の一つの大きな目的は、シロイヌナズナのPIF4遺伝子のプロモーター中の制御領域とそこに結合する転写因子を同定し、その制御メカニズムを明らかにする事である。平成25年度において、すでにPIF4遺伝子の発現を概日リズムに従い正に制御する領域と、乾燥や低温ストレス時に発現を低下させる負の制御領域とを明らかにする事ができた。また、これらの領域に結合する転写因子の候補遺伝子を単離する等、今後の研究の進展が期待できる研究成果も得られた。一方、イネの系を用いて、乾燥や低温等のストレス耐性を付与する遺伝子群を制御する転写因子をコードするDREB遺伝子と、細胞伸長に機能する遺伝子群を制御する転写因子をコードするPIF遺伝子を同時に導入した形質転換体を作出した。今後はこれらの形質転換体を用いて解析する事で、植物のストレス耐性獲得と成長制御の転写制御ネットワークのクロストークが示され、環境ストレス時の植物の成長制御機構の一端が明らかになると考えられる。 光合成関連遺伝子の発現制御は植物の生長に多大な影響を与える重要な機構であり、転写因子GLKのストレス時の活性の制御機構を明らかにする事を目指している。25年度は、GLK遺伝子の発現制御機構の解明を中心に研究を行い、ストレス時の発現の低下を見いだした。一方、過剰発現シロイヌナズナの系を用いる事で、GLKの機能は発現制御のみでは説明できずタンパク質レベルの制御機構の存在が予想された。研究は予想以上の結果を得ており、今後の更なる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、今後も植物の細胞伸長に関与する遺伝子群の発現を制御する転写因子PIFと光合成関連遺伝子群の発現を制御する転写因子GLKに関して解析を進めていく。25年度にはPIF4遺伝子の発現に関与するプロモーター上のシス因子を同定するとともに、これをもとに酵母のワンハイブリッドスクリーニング法によりPIF4遺伝子の発現を制御する転写因子の候補を単離した。そこで、これらの候補転写因子の遺伝子に関して、概日リズムや乾燥ストレス条件下における発現量を測定する。また、これらの候補転写因子遺伝子を過剰発現するシロイヌナズナ、T-DNA挿入やRNAiにより発現が抑制された形質転換シイヌナズナを作出し、それぞれの植物体での概日リズムや乾燥条件下におけるPIF4およびPIF5遺伝子の発現を解析する。 また、25年度に作出した乾燥ストレス耐性獲得に働く転写因子DREBとPIFファミリーを共発現する形質転換植物について、それぞれの転写因子の遺伝子発現量やタンパク質量を解析する。また、これらの発現量と生育速度や得られる種子数、環境ストレス耐性能との関係を明らかにする。さらに、生育と耐性のそれぞれに関わる遺伝子の発現を定量RT-PCR 法によって測定する。 一方、GLKの関与が予想される光合成遺伝子の乾燥ストレスによる転写抑制機構の解明を進めるため、GLK遺伝子やその標的と考えられる遺伝子の発現の抑制を定量PCR法で確かめる。また、25年度に作製したGLK-GFP融合タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナを用いて、GLKのタンパク質の安定化を解析するとともに、GLK転写因子と相互作用するタンパク質を単離・同定するため、共免疫沈降法によりGLKタンパク質複合体を抽出・精製する系を構築する。
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