研究課題
植物の乾燥などの環境ストレス耐性の獲得機構では、重要な機能を示す転写因子群が同定され、転写制御ネットワークの全容が明らかにされようとしている。しかし、ストレス下での植物の生育抑制の分子機構に関しては、ほとんど解明されていない。本研究では、植物の細胞伸長に関与する遺伝子群の発現を制御する転写因子PIFと光合成関連遺伝子群の発現を制御する転写因子GLKに関して解析を進め、ストレス下の植物の成長制御機構の解明を目指している。本年度は、前年度に単離したPIF4遺伝子の発現を制御するプロモーター上のシス因子に結合する転写因子の候補に関して解析を進めた。これらの候補転写因子の遺伝子に関して、酵母のツーハイブリッド法を用いて結合を確認した。また、これらの遺伝子の概日リズムや乾燥ストレス条件下における発現のパターンを解析した。さらに、これらの候補転写因子遺伝子を過剰発現するシロイヌナズナの作製や、T-DNA挿入やRNAiにより発現が抑制された形質転換シイヌナズナの作出を試みた。また、25 年度に作出した乾燥ストレス耐性獲得に働く転写因子DREB1AとPIFファミリーを共発現する形質転換植物について、それぞれの転写因子の遺伝子発現量を解析した。さらに、これらの転写因子の下流で機能している生育や耐性の獲得に関わる遺伝子の発現を定量RT-PCR 法によって測定し、多くの遺伝子が独立的に発現制御されていることを確かめた。一方、GLKの関与が予想される光合成遺伝子の乾燥ストレスによる転写抑制機構の解明を進めるため、GLK遺伝子やその標的と考えられる遺伝子の発現の抑制を定量RT-PCR法で確認した。
2: おおむね順調に進展している
形質転換体を用いてPIF4遺伝子の発現に関与するプロモーター上のシス因子を解析することにより、PIF4遺伝子の発現を正に制御する領域と負に制御する領域の両方が存在することを示した。また、正に制御するシス領域を用いた酵母のワンハイブリッド法により、PIF4遺伝子の発現を制御する転写因子の候補を単離した。候補転写因子の一つであるPPB1遺伝子は乾燥ストレス条件下で発現が減少した。PPB1遺伝子の過剰発現シロイヌナズナを作出して遺伝子発現を解析したが、PIF4遺伝子の発現に変化は見られなかった。そこで、PPB1にリプレッションドメインを結合して植物に導入することでドミナントにPPB1の機能を抑制する植物の作製を試みた。乾燥ストレス耐性獲得に働く転写因子DREB1Aと生長を活性化するOsPIL1を共発現する形質転換植物について、導入遺伝子の発現量を解析し十分な発現を示す植物体を得た。また、これらの転写因子の下流で機能している生育や耐性の獲得に関わるRD29AやEXPA遺伝子の発現を定量RT-PCR 法によって測定し、これらの遺伝子が互いに独立的に発現制御されていることを示した。GLKの関与が予想される光合成関連遺伝子の乾燥ストレスによる転写抑制機構の解明を進めるため、GLK遺伝子やその標的と考えられる遺伝子の発現の抑制を定量PCR法やノーザン法等で解析して確認した。また、これらの光合成関連遺伝子のプロモーター領域をGUSリポーター遺伝子と繋いでシロイヌナズナに導入した。
今後はPPB1遺伝子の機能を抑えることにより、PIF4およびPIF5遺伝子の発現がどのように変化するかを解析する。また、酵母のワンハイブリッド法を用いて、PIF4遺伝子の発現を負に制御するシス因子に結合する転写因子の単離にも挑戦する。これまでに作出した乾燥ストレス耐性獲得に働く転写因子とPIFファミリーを共発現する形質転換植物について、生理学的な変化に対応する遺伝子群の発現や代謝産物の変化を明らかにするため、これら2種の遺伝子を共発現する形質転換植物を用いてマイクロアレイ解析やメタボローム解析を行う。GLKの関与が予想される光合成関連遺伝子の乾燥ストレスによる転写抑制機構の解明を進めるため、GLK遺伝子やその標的と考えられる光合成関連遺伝子のプロモーター領域をGUSリポーター遺伝子と繋いでシロイヌナズナに導入した形質転換体を用いて乾燥による発現抑制に関与するシス因子を同定するとともにGLKとの関係を明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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