研究課題/領域番号 |
25251033
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
和田 正三 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 学術研究員(嘱託) (60011681)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 葉緑体運動 / アクチン繊維 / 光 / CHUP1 / アクチン重合 |
研究実績の概要 |
葉緑体光定位運動は光合成の効率化と強光による光傷害回避のため、植物にとって必須の生理反応である。葉緑体は、葉緑体外包膜上のCHUP1により葉緑体アクチン繊維(cp-actin繊維)を重合することによって推進力を得、移動すると考えられる。本研究では、cp-actin繊維の重合過程をin vitro系を使って生化学的に、また構造学の面から詳細に解析し、cp-actin繊維による葉緑体移動における推進力発生機構を解明することを目的としている。本年度はアクチン重合能を持つと予想されるCHUP1-C末端のアクチン重合に関わる機能解析を中心に解析を行った。まず、植物アクチンを用いた生化学的解析からCHUP1-C末端はprofilin存在下でアクチン重合能を示すことを明らかにした。同様な結果はピレンアクチン系を用いたアクチン重合アッセイでも得られた(産総研上田太郎博士との共同研究)。一方電子顕微鏡観察により、CHUP1-C末端は、既存のアクチン繊維の先端または側面に結合すること、さらにアクチン繊維切断の活性も示すことも観察された(産総研広瀬博士との共同研究)。またCHUP1-C末端の構造・機能解析から、CHUP1-C末端は二量体を構成すること、G-アクチンとの結合に重要なアミノ酸残基に変異を導入するとアクチン重合が阻害され、その変異体では葉緑体光定位運動も顕著に阻害されることが分かった。以上の結果は、CHUP1- C末端の保存領域がアミノ酸配列上の相同性は見られないにもかかわらず、アクチン重合促進活性を持つフォルミン(formin)のFH2ドメインに類似の構造と機能を持つことを意味している。CHUP1は植物特異的進化の過程でフォルミンとは独立に作られた、葉緑体運動に特異的なアクチン重合に関わる核形成促進因子であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4年間の継続課題の2年目であり、最終目的のアクチン繊維の重合による葉緑体運動の推進力発生機構の基礎的実験を進めている段階である。本年度は、CHUP1-C末端のアクチン重合能が証明され、CHUP1は葉緑体運動に特化した新規アクチン重合因子であることがわかった。CHUP1-C末端とG-アクチンの複合体モデルの解析から推測されたCHUP1-C末端の生化学的・生理学的機能の結果はCHUP1がアクチン重合因子であることを示しており、今後の更なる解析に大きな期待が持てる。以上の状況から、本研究は順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
CHUP1のアクチン重合の解析には全反射顕微鏡(TIRF)による分子レベルの観察が必須であり、27年度の早期に観察を行う。またアクチン繊維束化に関わるTHRUMIN1には必須のアミノ酸の存在とリン酸化の関与が考えられるので、結晶構造解析から推測される重要アミノ酸を改変してTHRUMIN1の分子構造と機能を調べる。CHUP1-C末端の機能にはCHUP1-N末端との相互作用が必須であると考えられる。そこで、CHUP1-N末端側のリコンビナントタンパク質を用いて、C-末端のアクチン重合活性の影響を調べる。また現状では全長のCHUP1をバクテリアに作らせることができないためにCHUP1-C末端の機能を解析してきたが、27年度には全長CHUP1を小麦や酵母で過剰発現させ、生成した全長CHUP1の作用を調べたい。神田教授グループとの共同研究である二量体CHUP1-Cの結晶構造解析と植物アクチンとCHUP1-Cの複合体結晶構造解析が進めば、それらの結果をCHUP1機能の解析に利用する。植物細胞内でのcp-actin繊維の重合にはCHIP1, KACなどCHUP1と複合体を形成していると考えられるタンパク質因子の機能も重要であると考えられるので、これらの因子の作用もin vitro系を用いて調べる。
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