研究課題/領域番号 |
25251043
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
篠田 謙一 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 研究調整役 (30131923)
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研究分担者 |
井ノ上 逸朗 国立遺伝学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (00192500)
斎藤 成也 国立遺伝学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30192587)
飯塚 勝 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (20202830)
富崎 松代 奈良女子大学, その他部局等, 名誉教授 (50093977)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 古代ゲノム解析 / 縄文人 / 渡来系弥生人 / ミトコンドリアDNA / ハプログループ / 核ゲノム |
研究実績の概要 |
平成27年度は、前年に引き続き、縄文人のゲノム解析を行った。特にこれまでのミトコンドリアDNAのハプログループ解析では詳細な分類ができなかった個体に関して、NGSを用いたミトコンドリアDNA全塩基配列の決定を試みた。その結果、縄文人の普遍的に存在し、日本の基層集団を特徴付けるハプログループであるM7aとN9bには現代人にはない系統が含まれることが明らかとなった。また、それぞれが地域的な分化を遂げていることも判明した。この結果は縄文人が列島の内部で広範に遺伝的な交流を行っていたわけではなく、地域的に異なる集団として存在していたことを示唆しており、従来の「均一な縄文人」という概念を覆すものである。 更に、これまでミトコンドリアDNAのハプログループ分析に成功した個体でHiSeq を用いた全ゲノム解析を行った。解析の対象としたのは、北海道、東北、関東の遺跡から出土した縄文前期~後期の人骨のDNAで、全ゲノムデータからSNPデータを抽出し、現代人との比較を行った。その結果、北海道のアイヌ集団に有意に近いのは、北海道礼文島の縄文人であることが判明した。これは縄文時代から続く北海道集団の遺伝的な連続性を示す結果である。また、関東、東北、北海道の縄文人は互いに遺伝的に近似するが、いずれも現代の日本列島及び中国大陸との集団との違いは大きいことも再確認された。縄文人は、東アジアの現代人集団と比較すると、極めて特異な遺伝的構成を持つ集団であり、その起源について現代人のDNAデータのみから推察することは困難である。我々の分析では縄文人と共通のSNPは、東南アジア~東アジアの集団に広く薄く共有されていることも示されており、彼らの起源地は特定の地域に収束するのではなく、アジアの広い地域から長い年月をかけて到達した人びとが、列島の内部で混合しながら形成されていった可能性があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去3年間の分析で、関東から北海道にかけての遺跡から出土したの縄文人10体のゲノムデータを取得した。特に北海道の船泊遺跡23号固体は、デプス20~30でゲノムを解析できたので、現代人と同じ精度での解析が可能になった。現在、データ解析中だが、このような精度の高い縄文人データはこれまでなく、縄文人の起源や現代人との関係について新たな知見が得られることが期待される。また同じ船泊5号人骨では、はじめて縄文人のY染色体ハプログループを決定している。これまで間接的な証拠からしか類推できなかった縄文人男性の遺伝的な正確を明らかにすることができた。このように、3年間の実験で画期的な成果をあげることが出来ており、順調に計画が進んでいると考えられる。 一方、これまでの縄文人ゲノムの解析で、縄文人自体の地域差はかなり大きいことも示唆されている。従って少数個体の分析だけでは縄文人が持つゲノムの全体像を捉えることが難しいこともハッキリとしてきた。このことは、更に時代と地域を広げて縄文人のゲノム解析を続けていく必要があることを示しているので、縄文人の解析は引き続き実行していく。更に残りの実施期間中には渡来系弥生人のゲノム解析を手がける予定だが、こちらも既にDNA分析用のサンプルは入手しており、計画自体は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの3年間で、古人骨ゲノム解析の手法についてはほぼ確立したと考えている。従って対象としている古人骨からのDNA抽出、ライブラリの作成、次世代シークエンサーを使ったデータ収集については、同じ方法を踏襲していく。データ解析については,数学者のチームと組んで、既存の方法の妥当性と新たな解析手法の適応について検討していく。 28年度からは,新たに渡来系弥生人の解析も始めるが、これは一つの墳丘墓に埋葬された集団で、相互の血縁関係にも興味が持たれている。ゲノムを解析し、縄文人と比較するだけではなく、その血縁関係に関する知見を得ることも今後の分析の目的とする。
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