研究課題
H25年度の研究計画に基づき、以下の研究実績を得た。(1)野生イネO. rufipogon の400系統X 各5個体を用いて、中国海南島において1年度目の育成と、出穂期、種子稔性、種子重量、花粉稔性、再生能力(1年生/多年生)についての形質調査を実施し、形質データを取得した。発芽不全や天候不良などによる欠失系統や、形質によるデータ取得のバラツキはあるが、300-350程度の系統数のデータを収集できた。特に多年生・1年生特性の自然変異幅は激しく、1年間栽培を続けても出穂しない系統もあった。また再生能力も、出穂期に合わせた解析サンプル取得による季節的ズレ、栄養状態などの問題もあり、個体内、個体間でも相当なバラツキが見られた。(2)平行してこれらの系統の種子を収集し、理研においてLC-MS解析(液体クロマトグラフ質量分析)を行い、100種類以上の代謝産物を検出できた。(3)すでに取得済みの上記系統におけるゲノム全域のSNP情報と、上記(1)(2)で得た形質および代謝物情報の相関解析を行った。1年次目のみで、バラツキの多いデータではあったが、試行解析を行い、GWA解析の結果を得た。GWASに用いる統計処理の方法により、観察できるピーク数が一致しない場合もあったが、有為な値を示したピークを、出穂期で2-3領域、種子稔性で4、種子重量で6-8、花粉稔性で2-3領域検出できた(4)同様にメタボローム解析データをGWASしたところ、少なくとも24の代謝産物について、有為な主要ピークを得る事が出来た。(5)量的な形質に関わるアソシエーション解析は計算手法の改良により、高精度な検出が可能になる場合がある。よって平行して、改良型を含む複数のGWAS解析プログラムの検討、および量的形質座解析に最適化された計算手法の適用を進めており、データバラツキの問題も踏まえて、次年度以降のGWA解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
前年度の海南島における栽培から、多様な変異を持つ多くの野生イネ系統で出穂をなるべく揃えかつ栽培期間を短縮するためには、秋作が最適であることがわかった。それでも収穫が大きく遅れた系統があり、初年度の種子収穫、調査、整理などが大きく2年度目にずれ込んだ。さらに種子輸入手続きに時間を要してメタボローム解析への種子供給が大幅に遅れたこと、解析装置の故障による遅延などが重なり、解析費用の繰り越しを余儀なくされた。スタートは都合半年程度の遅れとなったが、その後の解析を通じて、実績概要に述べた実績を得ており、実績の内容は、当初計画の1年次目の計画内容のほぼすべてを達成しており、概ね順調に進んでいる。スタートの遅れは予定外ではあったが、前年度の予備実験の結果を判断して半年の遅れで済んだものであり、その後は順調に推移している。
H26, H27年度における本課題の推進は、当初計画で述べた通り以下の予定で行なう。(1)400系統の野生イネ、全系統の5種類の形質調査項目に従い、系統毎の形質特性の第2回目の計測データを得る。(2)2回分すべての形質情報を用いて相関解析を行い、調査した全形質の制御に関わる遺伝子座のすべてをアソシエーション解析により検出・マップする。統計処理条件の検討、候補領域の遺伝子機能等の検討を行った後、候補遺伝子を列挙する。(3)400系統から、引き続き種子の代謝産物の検出確認を行い、全系統について、100種類を目標に代謝産物の種類、量と量比の確認を行う。これらの結果を用いて、確定可能な全代謝産物のアソシエーション解析を行い、それぞれの代謝産物生産に関与する遺伝子群のマッピングを行う。(4)花粉、種子等の生殖形質、再生能力形質については、主な候補遺伝子の変異アレルを検出し、機能相関検定のため、遺伝子型(ハプロタイプ)の同定を試みる。 100種類の代謝産物の生産を制御する遺伝子群については、特に農業上の主要代謝産物あるいはイネ特異的代謝産物を中心に、候補領域の中から候補遺伝子を生化学的情報から推定し、変異アレル間の機能の差異を推定する。有用代謝産物については、遺伝子のアレル同定と単離を試みる。
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