福島県北部の山間地では、福島原発事故で漏出した放射性セシウムが高レベルで玄米に吸収移行し、稲作復興の障害となってきた。申請者は地元自治体と連携して原因究明に取り組んできたが、この予想外の移行は水田生態系固有の物質循環に起因している可能性が高い。そのため、森林水文学や農地環境工学の専門家と連携しながら現地モニタリングを継続し、森林-用水-土壌-イネを通じた放射性セシウムの動きや、水田生態系内の各種の環境要員とイネの放射性セシウム吸収との関係を定量的に解明する。平成25年度は、一昨年に試験栽培した福島県伊達市小国地区の60水田から、放射性セシウムのイネへの移行様式における多様性(土壌の交換性カリウム濃度と放射性セシウム吸収との量的関係、用水からイネへの放射性セシウムの移行の有無など)を代表する4水田を厳選し、モニタリングを開始した。代掻き、水入れ、中干しなどの農作業に伴う用水のすべての収支を自動測定するとともに、用水中の放射性セシウム(懸濁態と溶存態に分ける)およびイネに吸収された放射性セシウムを測定し、水田における放射性セシウムの収支を検討した。用水中の放射性セシウム濃度は流水・ため池ともに大きく低下したが、ため池のセシウム濃度は季節によっては未だに1ベクレル/リットルを超える場合が見られた。調査地区の水田は浸透性が悪く(用水量は作期を通じて50cm程度)、このペースで用水中のセシウム濃度が低下すれば、用水から米へのセシウムの移行が規制値越えの原因となる危険性は少ないものと判断された。
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