福島県北部の山間地では、福島原発事故で漏出した放射性セシウムが高レベルで玄米に吸収移行し、稲作復興の障害となってきた。申請者は地元自治体と連携して原因究明に取り組んできたが、この予想外の移行は水田生態系固有の物質循環に起因している可能性が高い。そのため、森林水文学や農地環境工学の専門家と連携しながら現地モニタリングを継続し、森林-用水-土壌-イネを通じた放射性セシウムの動きや、水田生態系内の各種の環境要員とイネの放射性セシウム吸収との関係を定量的に解明する。このこと通じて、被災地の稲作復興に資するとともに、チェルノブイリ事故の類推では説明のつかない今回の稲作被害の生態学的本質を明らかにする。平成26年度は、平成24年度に試験栽培した福島県伊達市小国地区の60水田から厳選した、放射性セシウムのイネへの移行様式における多様性(土壌の交換性カリウム濃度と放射性セシウム吸収との量的関係、用水からイネへの放射性セシウムの移行の有無など)を代表する4水田を対象にモニタリングを継続するとともに、セシウム吸収に関する品種間差の影響を調査した。用水のセシウム濃度は通常の手法では検出限界以下の濃度まで低下したにも関わらず、水田での稲のセシウム吸収は低下が見られなかったことから、カリウムによる吸収抑制を行わない状況下では稲のセシウム吸収は予想以上に長期にわたる可能性が窺われた。品種間差については、ジャポニカ品種よりもインディカ品種のほうがセシウムをより吸収する傾向があることが分かった。
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