福島県北部の山間地では、福島原発事故で漏出した放射性セシウムが高レベルで玄米に吸収移行し、稲作復興の障害となってきた。申請者は地元自治体と連携して原因究明に取り組んできたが、この予想外の移行は水田生態系固有の物質循環に起因している可能性が高い。そのため、森林水文学や農地環境工学の専門家と連携しながら現地モニタリングを継続し、森林-用水-土壌-イネを通じた放射性セシウムの動きや、水田生態系内の各種の環境要員とイネの放射性セシウム吸収との関係を定量的に解明する。このこと通じて、被災地の稲作復興に資するとともに、チェルノブイリ事故の類推では説明のつかない今回の稲作被害の生態学的本質を明らかにする。平成29年度は、伊達市の3水田を対象にモニタリングを継続するとともに、量的遺伝子座解析法によりセシウム吸収に関与する遺伝子の推定を進めた。その結果、土壌へのカリウムの増肥を行わないと未だに100ベクレルを超える玄米を産する水田があること、これは土壌へのセシウム固定が進行しないためであること等が確認された。セシウム吸収に関与する量的遺伝子座については、QTLseq法で候補領域を狭めることができた。さらに、平成28年度より新たな調査項目として加えたセシウム移行と土壌の鉱物的特性の関連について研究を進めた(新たに加えた土壌の鉱物分析に時間を要したため、研究費の繰り越しを行って対処した)結果、イネのセシウム吸収は第三紀中新世の火山活動で生じた玄武岩と密接に関連していることが明らかとなった。
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