研究課題
低温出芽性を高める遺伝子qESS11は種子登熟期の後半に高い低温発芽性を維持する上で重要な役割を果たしていることが明らかになった。そして、qESS11はABAのシグナル伝達を抑えることで発芽性を維持していることが示唆され、脂質代謝に作用するqLTG3-1とは異なる機構で機能していることが示された。ハバタキ由来の強稈性遺伝子qSCM1, qSCM2と中国117号由来のqSCM3とqSCM4を組み合わせ、挫折型およびたわみ型倒伏抵抗性に関わる強稈形質のQTLの集積効果の検討を行った結果,2つのQTLの集積ではqSCM1とqSCM2の集積効果が高く、3つのQTLの集積では中国117号のqSCM3とqSCM4の集積にqSCM1を加えると集積効果が高くなり、挫折時モーメントおよび曲げ剛性もドナー親と同程度に大きくなることがわかった。ハバタキ由来の光合成速度を高める遺伝子qCAR4とqCAR8を集積し、ハバタキの染色体領域が1Mbp以下の準同質遺伝子系統を育成した。ハバタキ由来の光合成速度を高める遺伝子qCAR5の領域を約1.3Mbpに絞り込み、本遺伝子が葉の量に比べて根の量を増やして気孔伝導度を大きくすること、電子伝達速度を大きくする作用機構のあることを明らかにした。前年度に選抜したF3世代の2個体を世代促進温室で展開し、92個体ずつDNAマーカー選抜を行った。その後代より、低温土中出芽性(qESS11:阿波赤米型 455kbp)、穂発芽耐性(qSdr1:Kasalath型 450kbp)、光合成能力(qCAR11:ハバタキ型 356kbp)、強稈性(qSCM2:ハバタキ型 484kbp、qSCM3:中国117号型 163kbp)を高める5つの遺伝子座が有用型に固定され、その他の遺伝的背景がすべてコシヒカリ型に置換された集積系統(F5世代)を、2系統作出した。
2: おおむね順調に進展している
以下のように、計画通り概ね順調に進展している。すなわち、低温出芽性については、qLTG3-1とqESS11の2つの遺伝子産物の機能についての知見が十分に得られ、倒伏抵抗性については、太稈QTL SCM1~SCM4の2~3集積系統のたわみ型、挫折型倒伏抵抗性の評価を行い、強稈遺伝子の4集積系統を作出し、光合成速度については、光合成速度を高めるQTLを2つ集積した系統を作出した。さらに、コシヒカリ背景に5つの有用遺伝子を1Mbp以下の断片長で集積した系統の作出に成功した。
qLTG3-1とqESS11の2つの遺伝子を集積した時の効果について明らかにする。これらの遺伝子を有している他の品種の低温発芽性についても解析を進める。太稈QTL SCM1~SCM4の4集積系統の挫折型およびたわみ型倒伏抵抗性の評価、低温出芽性+光合成+倒伏抵抗性の集積系統における転び型倒伏抵抗性の評価を行う。光合成速度と葉身傾斜角を高める遺伝子の集積、あるいは光合成速度と強稈性を高める遺伝子の集積が乾物生産と収量に及ぼす影響を検討する。5つの有用遺伝子の集積系統について、低温土中出芽性の室内検定、圃場での苗立調査、穂発芽耐性調査、光合成速度および稈強度の測定を行う。また、移植および直播栽培して乾物生産と収量、収量構成要素をコシヒカリと比較し、遺伝子の集積効果と今後の問題点について検討する。
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Scientific Reports
巻: 6巻 ページ: ‐
doi: 10.1038/srep30572