研究課題/領域番号 |
25252017
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
菊池 洋 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40273320)
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研究分担者 |
梅影 創 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30419436)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2016-03-31
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キーワード | 発酵 / 核酸 / 応用微生物学 / RNA生産 / RNAドラッグ |
研究概要 |
細胞外に自身の核酸を放出する性質をもつ海洋性光合成細菌Rhodovulum sulfidophilumに,任意の機能性RNA配列を組込んだRNA発現プラスミドを導入し細胞外(培地中)に任意の機能性RNAを生産させる技術の開発を目的としているが,本菌の細胞外への核酸の放出機構自体は明らかでない。高効率の細胞外核酸生産を目指すためには,核酸放出機構の解明は重要である。10月より開始した本年度の研究は,主に基礎的なこの放出機構について大きな進展があった。報告者らは,α‐プロテオバクテリアで知られているGene transfer agent(GTA)に注目した。GTAは,Rdv. sulfidophilumに近縁のRhodobacter capsulatusに初めて見出されたファージ様粒子で,溶原化したファージと類似しているがファージゲノムは持たず宿主細菌のゲノムを粒子内に包含しているだけで自らの増殖能はない。ある条件下で一部の細胞で発現しゲノムの高効率の水平伝搬に貢献している。本年度,報告者らはRdv. sulfidophilumにおいてGTAが存在することを明らかにした。まず,Rdv. sulfidophilumゲノム上にGTA関連遺伝子を発見し,GTA粒子が培地中に存在することを電子顕微鏡観察で明らかにした。またこの粒子がRdv. sulfidophilumのゲノム配列を内包していることを明らかにし,その遺伝情報が水平伝搬することも確認した。さらに,このGTAによる水平伝搬は同種の細胞間ばかりでなく,属を超えた大腸菌への形質導入も可能であることが見出された。その他,GTA生産の制御因子の同定,クォーラムセンシングによるGTAの制御なども明らかになった。報告者らは,本菌による核酸の細胞外への放出は,このGTA生産と深くかかわっているものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績概要には,文字数の関係もあり,GTAに関する研究結果のみを記したが,その他にもいくつかの進展があり順調に推移している。例えば,今年度10月以前までにRdv. sulfidophilumのプラスミドコピー数の増加を目指したRepタンパクの発現,プラスミドOri上への点変異の導入,10月以降にもT7 RNAポリメラーゼ遺伝子のゲノム上への導入のためのプラスミドの構築,等が進められており今後の進展が見込まれる。また,これまでストレプトアビジン結合性RNAアプタマーのみをモデルとしてその生産を指標に進めていたが,このRdv. sulfidophilumをホストとする系でshort hairpin RNAもストレプトアビジン結合性RNAアプタマーと同程度の効率で生産できることが明らかになっている。以上のことから全体として本計画が順調に進んでいると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は,本年度10月から開始され,まだ半年の状態なので,今後もその方向でさらに進めて行く。すなわち,I) 使用プラスミドの改良,II) プロモーターの改良,III) T7発現系をゲノムDNA上に組込んだ細胞外RNA大量生産株の構築,を進める。その他,来年度より,IV) ホストRdv. sulfidophilumのゲノム解析,V) 細胞外に生産させた機能性RNAの効率的精製方法の開発,および,本報告書上記「研究実績の概要」に記した基礎的な生理学,遺伝学的研究を進め合理的な生産量拡大方策を試みる。I) については,現在すでにRep発現,RNA発現プラスミドの点変異は構築されたので,それらをそろえた系での結果の精査段階に入っている。II) については,現在改良型のrrnプロモーターのみだが,より恒常的に働くプロモーターや強力プロモーターを試験して行きたい。III) については,Rdv. sulfidophilumに近縁のRhodobacter属のゲノムにT7 RNAポリメラーゼを組込んだタンパク質生産系がドイツのグループにより構築され,すでに報告者らは,その系を得,RNA生産を試験している。現在のところ,この系は,転写活性自体は高いが,Rdv. sulfidophilum と異なる属のRhodobacterのためかRNase活性が高く,RNA生産には向かない。したがって,Rdv. sulfidophilumを用いたT7 RNAポリメラーゼ系の構築を進めて行きたい。将来的にRNAドラッグの安全性を担保するためにも本生産菌の徹底的な知見を集積しておく必要があり,IV)のゲノム解析は必須である。本学の次世代シークエンサーは順調に稼働しており,確実な結果を得ることに心配はない。V) および細菌学的基礎研究においても報告者らの研究室は多くの実績があり大きな問題はないと考えている。
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