研究課題
本研究は、人工的にデザインしたRNAを微生物を用いて菌体外に生産させる技術を開発するものである。これまで、報告者らは、微生物として、菌体外に自身の核酸を放出する性質を有する海洋性光合成細菌Rhodovulum sulfidophilumを用い、ストレプトアビジンに特異的に結合する能力を持つRNAアプタマー(saRNAapt)を菌体外(培地中)に生産させることに成功している。これまで生産に成功している人工RNAは、このRNAアプタマーだけであるため、本年度は、この技術が他の人工RNAの生産にも使えることを示すためshort hairpin RNA(shRNA)の生産を試みた。shRNAは、基本的には長いステムとループをもつRNAで、遺伝子発現制御能についてはsiRNAよりも高いことが知られている。したがって、RNA医薬として期待されている。ステム-ループ構造は、一般に細菌の転写終結シグナルの一部であり、shRNAをコードする人工遺伝子がスムーズに転写されるかどうかは懸念材料であった。報告者らは、遺伝子発現研究のレポーターとして汎用されるルシフェラーゼ遺伝子を標的とするshRNAを二種類デザインし、R. sulfidophilumによる生産を試みた。本菌による転写は二種ともスムーズになされ、saRNAaptとほぼ同様の収率で生産できることが示された。したがって、少なくとも今回デザインしたshRNA配列中のステム-ループ構造は、本菌の転写には大きな影響を与えないことがわかった。一方、今回の実験で、二種類のshRNAの内、一方のshRNAにおいては、ステム中での特異的なプロセシングが起こることが偶然発見され、今後この新システムをRNA生産に積極的に利用できる可能性が想起された。その他、本年度は、本菌のオートインデューサーの発見などクォーラムセンシングの解明など基礎生物学的研究も進めた。
2: おおむね順調に進展している
上記、実績の概要には、文字数の関係もありshRNAの生産を主に記したが、その他にも進展があり支障なく推移していると言える。例えば、(1)R. sulfidophilumのゲノム解析であるが、順調に進んでおり、菌体外核酸生産量の多いDSM 2351株についてはほぼ完了し、現在ホストであるDSM 1374株について進めている。完了の後、2菌株間のゲノムの精密な比較により生産量に関する遺伝子の解明が期待される。(1)の一部はすでにアメリカ微生物学会の発行する査読付専門誌Genome Announcementsに印刷中である。また(2)転写活性の強いT7 RNAポリメラーゼの遺伝子をゲノムに組込み発現させる系の構築を試みている。これについても現時点で組込みに成功し、農芸化学会で一部を発表している。本系は強い転写活性が見込まれ、生産量を飛躍的に伸ばすことが期待されている。現在発現系の完成を目指し進めている。さらには、本菌はフロック形成菌であり、その維持等がクォーラムセンシングで制御されている可能性を報告者らは以前発表している。このような基礎生物学的知見は、生産という産業の面でも、また人に使用するドラッグにおいては最優先されるべき安全性の点からも将来的に重要である。その意味で本年度、(3)クォーラムセンシングのオートインデューサーの同定、(4)フロック形成能増強変異株の取得など、様々な角度からの基礎研究も進めている。これらの研究は、国際学会であるIrago Conferenceで発表し、(3)は査読付プロシーディングスで印刷発表もしている。このように、今年度は、前項でのshRNAの生産の成功に加えて、本欄、上記(1)~(4)の成果の一部の公表などを行うことができた。以上のことから、本研究はそのゴールに向け順調に進んでいると判断した。
本研究が、目標とするのは人の医薬の生産である。そのために安全性は最重要課題である。今後、安全性確立のために、核酸放出機構の解明と、本菌を完全に理解する上で必須のゲノム解析は重要である。Gene transfer agent(GTA)に関する研究:申請者らは、本菌の核酸放出は、細胞の一部の溶解によるものという仮説を立てている。根拠は、本菌の近縁種である淡水性光合成細菌Rhodobacter capsulatusがGene transfer agent(GTA)と呼ばれるバクテリオファージ様の粒子を生産するという報告である。プラークが見られないことから、ある一定の距離をおいていくつかの細胞が溶菌することにより粒子が飛び出ると共に細胞内の核酸が培地に溶出するものと考えられている。昨年、RhodovulumのGTA生産に関する結果を当該報告書に記載したが、定量的再現性にまだ問題が残っている。そこで、今後はRhodovulumでも遺伝子伝搬能のあるGTA生産があることを確実なものにする。具体的には、培養上清を濃縮し、超遠心等によりpossibleなGTA粒子を精製。その画分からGTAを直接電子顕微鏡で観察。またGTAは、他のホスト細胞に感染しDNAを細胞内に注入し相同組換えを起こすはずであるので、その定量的な再現性の確認。このことで、真のGTAの存在とそれが生産されることにより溶菌が起こることの証拠をつかむ。このことにより、細胞外核酸の生産について説明することが可能となる。次世代シークエンサーによる二菌株のゲノム解析:前項の達成度の理由の欄でも示したように、Rhodovulum sulfidophilum DSM 1374株、DSM 2351株の二つの菌株のゲノムの比較は、核酸放出の機構解明に寄与する。この計画は、すでにその一部がスムーズに進行しており、今後情報学的解析を深化させる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
AIP Conference Proceedings
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undecided
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http://www.tut.ac.jp/university/faculty/rac/362.html