1.カイコ組織ごとのステロイド量の時空間変動解析 主要な組織(脳、前胸腺、脂肪体、マルピーギ管)中のコレステロールと植物ステロール量の変動を発育ステージごとにLC-MS/MSを用いて分析した。その結果、コレステロール量だけではなく植物ステロールの量も組織により大きく異なることを見出した。さらに統計的な解析により、組織ごとにグループ分けされ、前胸腺や脳は独自なステロール組成を示したことから、組織ごとにステロイドの取り込み機構が異なることが予想された。さらに、血液中からエクジソンと20-ヒドロキシエクジソン以外に、生合成中間体である7-デヒドロコレステロール(7dC)が検出された。 2.前胸腺におけるステロイド類の取り込みに関わる新規因子の探索 前胸腺で発現していたスカベンジャー受容体(SR-B1)のうち、どの受容体がステロイドの取り込みに関わっているか培養細胞で検証した結果、ある特定の受容体がコレステロールの取り込みを促進することがわかった。 3.マダニのコレステロール取り込みに関わる分子の探索 マダニのRNA-seqデータから、リポタンパク質受容体(LpR)及びスカベンジャー受容体(SR-B1)の探索を行った。LpRと相同性を持つ配列は、LpRとリポホリンとともにメジャーな輸送タンパク質であるVitellogeninの受容体(VgR1、2)であった。LpRは様々な組織で発現しており、様々な組織における脂質の取り込みに関わると考えられる。また、吸血から数時間で発現量が上昇することから、栄養摂取に応答して発現が誘導されると考えられる。マダニは卵巣でエクジソンが生合成され、エクジソンによって卵成熟が誘導される。したがって、LpRはコレステロールの取り込み量を増加させるとともにエクジソン生合成の原料供給に関わることで、マダニの卵巣発達に関わると考えられる。
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