研究課題
基盤研究(A)
1) 既存定量化学分析と二次イオン質量分析(TOF-SIMS)との組み合わせによる高精度・高分解能分析微小領域のみを標的とした定量分析の新手法として、レーザーマイクロダイセクション法を用いたサンプル収集について検討した。結果より、通常の化学分析法では差異の検出が困難であった放射組織について高感度な分析が可能であり、放射組織の木化過程について、より確実なデータを得ることに成功した。さらにTOF-SIMS分析による二次イオン検出量について詳細な調査を行い、定量化学分析の結果と比較した。結果より、従来検出イオン量の規格化に用いられている全イオン量は必ずしも基準として適切ではなく、高分子量成分であれば高分子量成分との比較を行うことで、定量化学分析の結果とより良い一致を示すことが明らかとなった。2)TOF-SIMS 二次イオン発生機構の解明凍結試料の測定に関して、まずこれまでに完全には解決できていなかった表面の帯電補正および試料搬送時の各種トラブル低減について取り組んだ。結果、試料ホルダの再設計により帯電補正を安定して行うことが可能となった。また搬送システムの中間チャンバーにおいて、試料を一時保管する機構について再設計することで、搬送を安定して繰り返すことが可能となった。これらの改善より、より大きな範囲について安定した連続測定が可能となり、異なる組織間での議論を行うことが可能となった。また、これまでに検討の進んでいなかったネガティブ二次イオンについても検討を進めた。ポジティブおよびネガティブ二次イオンについて、それぞれ標準化合物の水溶液を調製して測定し、乾燥状態から得られるスペクトルとの比較を行った。結果より、水溶液状態から凍結された標的化合物は、周囲の水あるいは共存塩の影響を強く受け、乾燥状態とは大きく異なったイオン化挙動を示すことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の一つとしていた微小試料の定量分析について、レーザーマイクロダイセクション法による地道なサンプリングを行った。また用いる定量化学分析に関して、微小量に最適化した反応プロトコルを開発した。結果より、これまでに顕微鏡観察等から議論されていた放射組織の木化過程について、ウェットケミカルな手法で証明することが出来た。さらに、得られた定量分析データに基づいて、TOF-SIMSスペクトルの分析法についても検討した。TOF-SIMSによって得られるイオン量は存在モル量と直接的に関連付けられないため、定量分析結果を基にして、適切なデータ処理を考案する必要があった。結果より、これまで相対イオン強度比較のための基準となっていた「全イオン量」あるいは「共通する低分子のイオン量」は必ずしも適切ではなく、分子量の近いイオンを用いて量的比較を行うほうが、定量分析結果と良好な一致を示すことがわかった。これらの成果について国際誌に2報を投稿し、ウェブ上で公開済みである。もう一つの計画としていた二次イオン発生挙動の解析については、議論の根拠となる再現性問題の解決に取り組んだ。様々な部品について再設計を行うことにより、より安定したデータを得ることが出来るようになった。これらの検討結果より、これまでは不可能であった長距離の連続イメージについて、安定して測定することが可能となり、異なった組織間での比較考察ができるようになった。以上のように、優れた定量結果が認められて論文化できたこと、ならびに広範囲にわたるシステム改良によって適用範囲を大きく拡張出来たことから、順調に進展しているものと判断した。
初年度の本課題予算により、より高感度なイオントラップGC/MS装置を導入することが出来た。これにより、これまでに検出が困難であった大きな分子単位での定量評価が可能となった。またレーザーマイクロダイセクション法との組み合わせによって、TOF-SIMSのデータ解析手法を大きく改善できる可能性が初年度の成果として得られている。以上のことから、定量可能な構造の種類を拡張すべく、異なったリグニン単位構造を有する様々な樹木について、またあるいは比較的分子量の大きい抽出成分などについても検討を進め、分析評価法としての応用範囲を拡張する。二次イオン発生挙動に関して、水溶液状態から凍結された標的化合物は、周囲の水あるいは共存塩の効果により、乾燥状態とは大きく異なったイオン化挙動を示すことがわかっている。このことから、イオン化挙動に直接的な影響を与える一次イオンのエネルギー等を検討することで、これまで乾燥試料と同様に設定されていた分析条件から、cryo測定に最適な分析条件へと改善させられるのではないかと考えている。
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