研究課題/領域番号 |
25252033
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 淳司 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (40183842)
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研究分担者 |
今津 節生 奈良大学, 文学部, 教授 (50250379)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木材組織 / 画像処理 / 樹種識別 / 機械学習 / ディープラーニング |
研究実績の概要 |
九州国立博物館では、大型エックス線CT装置を導入の後、文化財の非破壊検査を行ってきた。今後も、CTを中心とする三次元計測は文化財の科学調査の中核になると期待されている。これらの機器の円滑な運営や様々な分野との連携研究によって、文化財の構造・技法などの研究、さらには文化財の健康診断などの保存・修復に関する情報、本物を理解するための展示や教育への活用などに幅広く役立つことが期待できる。そのような理由から、本研究は三次元計測データから得られる木材の画像情報を利用して、樹種を自動認識するシステムを構築することを目的とする。この技術は、テクスチャー解析と情報処理技術による全く新規なものであり、非破壊検査が原則の文化財の用材の調査など、様々な応用が考えられる。またシステム自体は木材についての知識を必要としないので、歴史学、考古学、鑑識科学など幅広い分野での応用が期待できる。 画像から求めることの出来るテクスチャー情報には様々なものが報告されているが、これまで報告例の多いグレーレベル同時生起行列から計算するハラリックパラメータなどを採用して解析を進めてきた。構築したシステムの判定精度は、データベース画像では高い精度が得られるものの、実際の木製品画像(撮影条件や分解能のことなるもの)に対して精度が落ちるため、その原因を解明して画像データの前処理や解析プログラムのアルゴリズムに反映することで、自動樹種判定システムの実装を最終目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
画像認識による樹種識別に関する研究では、論文2報、講演1件、学会発表5件を報告し、関連分野の注目を浴びている。昨年度、比重の異なる樹種間でご識別があることが判明したので、その原因を除去するために、CT輝度値の比重への変換を試みた。また、判別器自体の性能を高めるためにアルゴリズムの検討も併せて行った。 1)データベースの再構築:CT輝度値のキャリブレーションの検討 輝度情報が木材の比重の情報を反映するならば、識別精度の向上が期待される。そこで、データベース構築用の木材と同時に標準物質(比重の異なる標準木材サンプル)をCT撮影し、各サンプルについて新たに濃度を比重換算した画像データベースを構築して昨年度同様の解析に供した。その結果、ケヤキとキリの識別において誤認識が解消された。 2)判別プログラムの検討 判別には最も単純明快とされるk-NN交差検証法を用いてきたが、ユークリッド空間における単純距離ではなく、各標本グループの分散と標本グループ間の距離を用いて、説明変数に重み付けをするという新しい識別器を作成し、判別精度の向上を達成したと同時に、判別精度を数値として表すことのできるプログラム上での改良を行った。
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今後の研究の推進方策 |
グレーレベル同時生起行列から計算するハラリックパラメータなどを採用して構築したシステムの判定精度は、データベース画像では高い精度が得られるものの、実際の木製品画像(撮影条件や分解能のことなるもの)に対して精度が落ちるため、その原因を解明して画像データの前処理や解析プログラムのアルゴリズムに反映することで、自動樹種判定システムの実装を最終目的とする。 これまでの改良をまとめると以下のとおりである。CT濃度値を比重に変換することにより、テクスチャー的には誤判別されるキリとケヤキの区別が可能となること。画像の撮影条件や日時によって検出器の安定度が異なるためスパイク状のノイズが画像に載っており、フィルター処理が必要なこと。様々な画像フィルター(ハイパス、ローパス、メディアン等)のうち、メディアンフィルターが最も効果が大きいこと。また判別器のkNN法にと比較して、クラス間の分散が大きく、クラス内の分散が小さくなるように重み付けをする新しい判別器により判定制度があがることが明らかとなった。今年度は最終年度の取り組みとして、スケールや回転に依存しない特徴量としてしられる、SIFT, SURF, HOGなどの特徴量を求め、k-NN交差検証法、重み付け距離法に加えてLDA(線形判別分析)やSVM(サポートべクターマシン)などを比較検討する。また、特徴量の検出から判別までいっさいのプロセスをニューラルネットワークに学習させるCNN法(画像に対して最も頻用されるディープラーニング)を検討して、識別精度の向上を目指し、実施の文化財サンプルの解析に応用する。
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