九州国立博物館では大型X線CT装置を活用し、文化財の非破壊的な診断を実施してきた。この測定を通して、これまでに多くの文化財の内部構造について画期的な情報をもたらしてきたが、古えの人々が利用した木材の樹種の特定には至っていなかった。得られる画像の解像度は最高でも髪の毛一本、〇・一ミリ程度であり、従来の顕微鏡的な識別に必要な数マイクロメートル~数十マイクロメートル単位の観察は行えない。とはいえ、CTデータから得られる木口面の二次元画像(以下、CT画像と呼ぶ)を見てみると、年輪等の木目を明瞭に観測することができる。CT画像のグレーレベルの濃淡は密度の差なので、組織構造とはやや異なる、樹種特有の微妙な密度の違いがCT画像にあらわれているはずである。であれば、従来の顕微鏡的識別に必要な分解能より二桁劣る画像でも、人工知能を使えば識別ができることが予想された。 当初、古典的な特徴抽出量であるグレイレベル同時生起行列を元にハラリックパラメーターを計算して判別するという方法を検討した。R言語によって上記のプログラムを実装し、wvtoolパッケージとして後悔した。この方法によって、木彫像に頻用される木材について、大型CT装置と同様の分解能の画像であっても、識別が可能であることを確かめ、その条件について詳細に明らかにした。また、その研究の応用では、Python言語で深層学習のプログラムを実装し、阿修羅像の内部に利用されている心木の樹種の同定を、興福寺、奈良大学、九州国立博物館の共同事業により取り組み、3種類の異なる樹種の候補を同定した。 また、一方木材の光学顕微鏡写真や実体顕微鏡写真のデータ作成にも取り組み、これまで不可能と考えられていた「種」のレベルの同定が、深層学習や、SIFTなど人の設計する特徴抽出器による学習によって、十分可能であるという結果を得た。
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