研究課題/領域番号 |
25252035
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中嶋 正道 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20192221)
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研究分担者 |
田中 憲司 福山大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (00309634)
酒井 義文 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10277361)
平井 俊朗 帝京科学大学, 生命環境学部, 教授 (30238331)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヤマメ / ギンブナ / 放射性セシウム / 血液性状 / メラノマクロファージ / サケ / 発現遺伝子 |
研究実績の概要 |
平成27年度は福島県内阿武隈山地の河川に生息する野生ヤマメの放射能汚染状況と血液性状、発現遺伝子の状況の調査とギンブナを用いた放射性セシウム含有餌の給餌実験、およびヤマメにおける給餌実験のためのクローンヤマメの作成を行った。 福島県内の請戸川、真野川における河川底質の放射性セシウム濃度の測定を行ったが、前年度と比較し低下する傾向はみられなかった。しかし、筋肉中の放射性セシウム濃度は阿武隈川と真野川では低下する傾向が観察された。このことから汚染状況が比較的軽かった河川ではヤマメの汚染状況は改善する傾向にあることが分かった。一方、請戸川のヤマメでは低下する傾向は観察されず、餌等を通じての放射性セシウムのヤマメ体内への移行が継続しているものと考えられる。 血液性状を調べたところ筋肉中の放射性セシウム濃度の上昇に伴い血球容積が増加する一方、血球当りヘモグロビン量と血球当りヘモグロビン濃度が低下する傾向が観察された。これは筋肉中の放射性セシウム濃度の高い個体が貧血傾向にあることを示している。また、いくつかの遺伝子が筋肉中の放射性セシウム濃度の上昇に伴い特異的に上昇、あるいは低下していることが今年度の採集サンプルでも観察された。また、鰓組織の異常や脾臓におけるメラノマクロファージの増加も昨年度と同様に観察された。これらの結果は放射能汚染地域のヤマメは何らかのストレスを受けていることを示している。放射線の直接の影響かどうかはさらなるモニタリングが必要である。また、請戸川に遡上するサケの遺伝的多様性を5歳魚(震災前生)、4歳魚(震災年生)、3歳魚(震災後生)間で比較したところ、減少傾向は観察されなかった。このことはシロサケ集団に及ぼす震災の影響は限定的だったことを示唆している。今後、北海道で採集されたサケで得られているデータとの比較を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は4年間の実施期間を予定していた。平成27年度までにこのうちの3年間が終了した。この間に阿武隈川、真野川、請戸川においてヤマメ筋肉中の放射性セシウム濃度、血液性状、発現遺伝子の変化等を継続して調査することができた。これら調査はほぼ計画通り行うことができた。これらの調査結果から放射性セシウムが及ぼす影響についておおよその傾向を把握することができたといえる。 平成27年度の調査において阿武隈川と真野川において筋肉中放射性セシウム濃度の減少傾向を確認できたことは今後のそれら河川における漁の再開に向けて明るい材料といえる。また、現在得られている結果からはヤマメ自体は何らかのストレスを受けていると考えられるものの、致命的なものではなく、状況が改善されれば通常の状態に復旧するものと考えられる。 ギンブナへの給餌実験では10000Bq/kg(高濃度セシウム給餌区)とコントロールとの間で、遺伝的変異性、環境適応能力等における差異は観察されなかったことから、このレベルの放射性セシウム濃度では当初予想されたDNAの損傷や次世代へ影響する大きな事象は生じていないことが明らかとなった。このことは真野川で採集されたヤマメから雌性発生を用いた作成した次世代においても大きな遺伝的変化は観察されなかった。これらのことから当初心配された大きな変化は生じていないものと予想される。 最終的にはヤマメにおける給餌実験との比較を行う必要がある。一方で報文としての成果の公表作業がやや遅れ気味である。最終年度に可能な限り成果を報文として公表してゆきたいと考えている。全体としておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度までと同様に福島県阿武隈川、真野川、請戸川でヤマメのサンプル採集し筋肉中の放射性セシウム濃度の調査を行うとともに、河川底質中の放射性セシウム濃度の測定も継続する。6月から12月にかけて月一回、合計7回程度のサンプル採集を予定している。また、採集時の測定形質として血液性状や組織形態の調査、発現遺伝子の調査も併せて継続する。 また、秋に遡上するサケの遺伝的多様性調査も継続する予定である。今年度遡上するサケはすべて震災後に生まれた個体であることから、前年度、前々年度の採集個体との比較を行い、孵化放流が停止された影響やその他生息環境が変化した影響に関しての調査を継続して行う予定である。調査対象河川として前年度までと同様に宮城県広瀬川、福島県請戸川を予定している。また、コントロール河川として北海道千歳川を予定している。 今年度は昨年度作成したヤマメクローン系統を用いた給餌実験を行う。冷水性魚類であるヤマメの飼育期間は施設の関係から冬季から春季に限られることから、餌の放射性セシウム濃度をやや高めの50000Bq/kgとし、飼育期間は4か月程度を予定している。調査項目は野生ヤマメと同様に筋肉中セシウム濃度、血液性状、組織形態、発現遺伝子の変化を予定している。 今年度は本課題の最終年であることから平成29年3月に開催される日本水産学会春季大会時にシンポジウムの開催を予定している。すでに講演予定者には連絡し承諾を得ているとともに、水産学会シンポジウム企画委員会から開催の承諾を得ている。また、シンポジウムの内容を単行本としての刊行を予定している。
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