研究課題
基盤研究(A)
一酸化炭素資化菌は、環境中の一酸化炭素(CO)をCOデヒドロゲナーゼ (CODH)により除去し水素を生成することから、環境での代謝活性を促進する潤滑油として機能すると考えられる。そこで本菌の特性を分子微生物学的手法により総合的に理解し、C1化学への展開に向けた持続的低炭素社会の基盤構築を目的とする。本年度の研究成果は、以下の通りである。1)Carboxydothermus属2株のドラフトゲノム解読を行い、既報本属2種との比較ゲノム解析を行った。本属4種は解糖系や不完全TCAサイクル、呼吸系、炭酸固定に関する遺伝子を全て共有し、CODH 遺伝子クラスターにおいてはCODH II~Vの遺伝子は4種で保存されていた。一方、CO酸化と共役した水素生産を担うCODH I遺伝子クラスターの有無は水素生成能を反映せず、本クラスター非依存の水素生産経路が存在することが示唆された。2)鹿児島県薩摩硫黄島近海の鬼界カルデラ海底コアサンプルより分離した新属新種Calderihabitans maritimus KKC1株のドラフトゲノム解析を行った。ゲノムサイズは約3Mbpで2987個の遺伝子をコードし、本種に近縁なMoolla属細菌2種のゲノム性状と類似していた。代謝に関わるゲノムコンテンツが大きく異なり、本種とこれら2種に共有されるオルソログは総遺伝子数の約半数に留まった。本種のCODH遺伝子クラスターは7か所認められ、既報と比較して最も多くのCO代謝系を有しうち3つは既存のCODHとは異なっており新たなCO資化代謝を保有すると推察された。3)定量的PCR法により鰻温泉において本菌の検出量は低いが、全地点から試料1 g当たり1,000-100,000コピー検出された。各試料のCO消費活性とコピー数との間に相関関係が無いことから、Carboxydothermus属細菌以外にCO消費を担う微生物が存在する可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度にこれまでゲノム未解読であった3種の一酸化炭素資化性菌(Carboxydothermus属2株ならびに新属新種の真正細菌)のドラフトゲノムを得ることに成功した。近縁微生物とのゲノム比較解析から、新たなCO代謝系の存在や水素生産過程を予測するなど大きく前進した。一方、異常降雨による調査定点の環境変化に伴い、一酸化炭素資化菌の卓越する環境でのメタゲノムデータを取得できなかったため、上記の判断に至った。
CO資化条件下で培養した本菌から全RNAを抽出し、前年度得られたドラフトゲノム情報に基づき、トランスクリプトーム解析に供する。また同時にメタボローム解析 (外注)により、代謝産物の違いを明らかにする。これらのデータを統合し本菌のCOから水素へ至る代謝マップの全容を解明する。また火山性温泉にて定量的リアルタイムPCR法によりCO資化性好熱菌密度と地質学的・化学的分析による環境パラメータとの関連付けを行い、本菌の生育環境を明確にする。さらに本環境のメタゲノム解析および得られる新種CO資化菌の性状解析・メタゲノム解読を進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
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