研究課題/領域番号 |
25252054
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20175160)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | リプログラミング / 初期胚 / 卵 / 母性RNA |
研究実績の概要 |
成長卵ではほとんど翻訳されていないが、減数分裂の再開あるいは受精後に、poly-A鎖が伸長してポリゾームに動員されて翻訳が開始される母性mRNAが存在する。リプログラミング因子はこのような種類の母性mRNAから受精後に翻訳されるものと考え、減数分裂再開時および受精後に翻訳量が増加するmRNAをコードする遺伝子を同定し、そのリプログラミングにおける機能を明らかにすることを計画した。 そこでまず、一般的に翻訳量増加の際に起こることが知られているpoly-A鎖の伸長に着目した実験を行った。すなわち、全RNAとオリゴdTカラムで抽出したRNAを用いてそれぞれRNAseqを行い、それらの結果を比較することでpoly-A鎖が伸長したmRNAを探索するというものである。前年度までにこのためのRNAサンプルを集め、RNAseqデータを得た。今年度はこのデータを解析し、リプログラミング因子の候補を探索した。その際、リプログラミング因子は卵特異的に発現していることが考えられたため、候補遺伝子についてRT-PCRにより卵巣を含む各組織、培養細胞、卵および初期胚での発現量の比較を行い、候補遺伝子を得た。 本研究の計画当初は、上記によって得られた候補について、RNAiによるノックダウンの実験を計画していたが、最近、CRISPER/Casシステムにより効率の良いノックアウト作成が可能となったため、本研究においてもこの方法を導入することにした。そこで、まず本研究室でこのシステムが有効に利用できるかを検証するため、機能が既知の遺伝子(c-Mos)についてノックアウトを試みたところ、効率良くノックアウトできることが確認できた。そこで、現在は、CRISPER/Casシステムによる候補遺伝子のノックアウト作成を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は、研究実績の項で記したように、リプログラミング因子を明らかにするために、母性mRNAの中で受精あるいは減数分裂再開を機としてpoly-A鎖が伸長するものを網羅的に探索するというものである。そこで、成長卵、未受精卵および1細胞期胚についてそれぞれ全RNAおよびオリゴdTカラムでpoly-Aセレクションを行ったRNAについてRNAシーケンスを行い、減数分裂の再開前後および受精前後での変化を調べたところ、poly-Aセレクションしたもので大きく増加する遺伝子を多数発見できた。これらの遺伝子の中で卵特異的に発現しているものがあり、これらはリプログラミング因子の有力な候補であると言える。したがって、計画していた探索法により候補遺伝子を絞り込むことができ、本研究計画が十分に達成されたものと考えられる。 また本年度に、CRISPER/Casシステムによる遺伝子のノックアウトを新たに研究計画に加えることで、当初計画していたものよりもより有効な候補遺伝子の機能探索を行うことが可能になるものと考えられる。このような新たな実験系を加えることで研究の進行は若干の遅れが見られたが、より詳細かつ確度の高い結果が得られるという点において今後の研究においてより大きな成果が期待される。 以上、本研究プロジェクトは、ここまでの結果で十分な進展があったものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)受精後に動員される母性mRNAの網羅的探索による、リプログラミング因子候補の探索。 受精あるいは減数分裂再開を機に動員される母性mRNAの探索について、H26年度はpoly-A鎖伸長を指標とした実験を行い、リプログラミング因子の候補遺伝子を得たが、さらに確度の高い候補とするために、H27年度はポリゾームへの取り込み増加を指標としたRNAシーケンスの解析を行う。すでに超遠心でポリゾーム分画を回収する方法についてはこれを確立できたことから、そこで得られたRNAと全RNAで行ったRNAシーケンスの結果を比較することによって減数分裂再開後あるいは受精前後で動員される母性mRNAを同定する。この結果とH26年度に得られたpoly-Aセレクションを行ったRNAシーケンスの実験結果を照らし合わせて、最終的なリプログラミング因子の候補を決定する。 (2)候補遺伝子の発現抑制によるリプログラミング因子の同定。 上記(1)で得られたリプログラミング因子の候補について、実際にそれらがゲノムのリプログラミングに関与しているかどうかを確認する。そのため、CRISPER/Casシステムによる遺伝子のノックアウトを行い、リプログラミングに関わる現象に変化が起こるかどうかを調べる。また、卵の体外成長を行い、RNAiによる候補遺伝子のノックダウンを試みる当初の計画は、卵成熟および受精前後にフォーカスした遺伝子の機能を解析するうえで必須と考えられるため、計画通り進めることとする。
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