研究課題/領域番号 |
25252056
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内藤 邦彦 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20188858)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工ヌクレアーゼ / ZFN / CRISPR / ブタ卵 / マウス卵 / 魚類卵 |
研究実績の概要 |
本研究はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)の効率を高め、実験動物のみならず家畜や魚類など広く一般に実用化することを目的として開始したが、2014年度からはZFNに加えCRISPR/Cas系も視野に入れて研究を遂行してきた。 本年度は当初の予定とは若干異なるが、①ZFNを魚類卵へ応用すること、②CRISPR/Cas系を家畜卵に応用すること、③マウス卵を用いてノックイン(KI)動物作成の効率向上と条件的ノックアウト(CKO)動物作成のためのベクター構築の3点を検討した。その結果、①魚類卵に対しては、ZFNをゼブラフィッシュ1細胞期胚に作用させた結果、高濃度では胚が死滅してしまうが10 ng/μlでは生存胚が存在し、その約10%の胚に変異が導入されることを明らかにした。②家畜卵に対してはブタ卵を用い、未受精卵にCRISPR/Casを作用させると2細胞期までに約半分の卵に遺伝子破壊を起せること、さらにこれまで報告の無い減数分裂過程の未成熟卵に作用させると48時間後の第2減数分裂中期卵の約80%と初期発生過程より効率的に遺伝子破壊が可能であること、これに対し核膜崩壊(GVBD)が起こる前の卵では全く遺伝子破壊が起こらないことを突き止めた。GVBD以前に遺伝子破壊が起こらない原因については今後の検討課題である。③KIに関してはマウス卵に対しガイドRNA (gRNA)とCas9のmRNAに加えドナーDNAとして約150塩基の一本鎖DNAを共注入することにより約80%という高率でKIが起こることを確認した。しかし、より長いDNA挿入の目指し二本鎖DNAを注入すると多くの卵が死滅すること、低濃度では生存するがKIが起こらないことを確認しており、今後の検討課題である。CKOに関してはCRISPR/Casを人為的に発現誘導できるベクターの作成を行っており、現在その効率を確認中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度の予定では、CRISPR/Cas系を家畜卵に応用すること、およびマウス卵においてCKO動物の作製とKI動物の作製効率を高めること検討を予定し、家畜卵としてはブタ卵母細胞を用い、受精前の減数分裂過程にCRISPR/Cas系を作用させ、染色体の状態と遺伝子改変の関連を調べること、またオフターゲット率の低下を目指しCas9ニッカーゼの使用をブタ卵にも応用することを掲げた。実際の進行状況は、このうち受精前の減数分裂過程でCRISPR/Cas系が高率に作用することを示し、凝縮した染色体に対し遺伝子改変を行い得ることを明らかとした。この点は予定通りである。しかし、Cas9ニッカーゼの使用については行っていない。この理由は既に通常のCRISPR/Cas系を用いてブタの遺伝子改変が行われ、その効率、毒性に大きな問題が無いことが報告されたため、あえて煩雑なCas9ニッカーゼを使用する必要は無いと判断したためである。この部分の遅れについては魚類に対する成果が得られており相殺して予定通りと判定した。 マウス卵に対してはKI動物効率の向上を目指し、相同組み換えに作用する因子のmRNAを同時に注入して過剰発現させるなどの方法の検討、またCre/loxP系を介さずにCRISPR/Cas系を条件的に発現させたCKO動物作成も検討していく予定としていた。実際の進行状況としては、KIのドナーDNAとして一本鎖DNAを用いることにより約80%という高率でKIに成功しており十分な成果である。しかし、ドナーDNAとして二本鎖DNAを用いると多くの胚が死滅することが判明し、また相同組み換えに作用する因子として非相同末端結合を促進するKu70のドミナントネガティブ変異体を作成し過剰発現を試みている。これについては、未だ十分な結果は得られていないものの試すことを予定していたので進行としては予定通りである。CKOについてはベクターの作成を既に行っており効率を検討中でこれも予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
達成度にも記した通り、既に通常のCRISPR/Cas系を用いてブタの遺伝子改変が行われ、その効率、毒性に大きな問題が無いことが報告された。そこで家畜卵に対しては通常のKO動物作成ではなく、CKOやKI動物作成に応用することを検討すべきと考えている。この点はマウスでも未だ十分ではないため、当面はマウスを中心にこれらの検討を行う。KI個体の作製に関しては、ドナーDNAとしては約150塩基の一本鎖DNAを用いると約80%という高率でKIが起こるが、長い配列のKIを目指す場合には二本鎖DNAを用いる必要がある。本年度の研究で高濃度の二本鎖DNAを胚に注入すると多くが死滅するため、ドナーDNAの形状や濃度を変化させKI効率に及ぼす影響を調べていく。CKO動物の作製に関してはCas9とgRNAの両者を特定の時期や組織のみで働くRNAポリメラーゼII駆動性プロモーターを用いて制御する方法を検討していく。具体的にはリボザイムを用いてgRNAを切り出す方法を考えている。 家畜卵に関しては本年度の実験により、報告の無い減数分裂過程のブタ未成熟卵にCRISPR/Cas系を発現させると約80%と、むしろ初期発生過程より効率的に遺伝子破壊が可能であるが、核膜崩壊(GVBD)が起こる前の卵では全く遺伝子破壊が起こっていなかったため、本年度はこれが未成熟卵の核内の特殊なDNA形状に起因するためか、あるいはCRISPR/Cas系の核内輸送に未成熟卵特異的な特性があるためか検討する。方法としてはCas9ヌクレアーゼmRNAに蛍光タンパク質のEGFPを融合しブタ未成熟卵に発現させ細胞内動態を探ること、また核輸送に関与する因子を抑制、あるいは促進することにより遺伝子破壊効率を高められるかを検討する予定である。 また、本年度は魚類卵として実験動物であるゼブラフィッシュに対してZFNを作用させたが、より効率の高いCRISPR/Cas系を実用的な種であるニジマス、ヒメマス、およびヤマメ胚に作用させるとこを計画している。
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