研究課題
本研究においては、19世紀に発見された遺伝子の担体である染色体の内部構造が現在に至るも解明されていない現状に鑑み、その最終的な解決を図ることを目的としている。そのため、申請者らは従来の染色体の構造研究では基本的にはすべてが電子顕微鏡や原子間力顕微鏡等を用いたクロマチン繊維の可視化によるアプローチが取られていたところに注目し、それとはまったく別の新しいアプローチを採用することとした。この新たなアプローチでは、染色体内部の全ヌクレオソームを可視化し、さらには3次元空間へマッピングすることで、染色体内のクロマチン構造をシミュレーションする。2015年度は、昨年度に引き続き、収束イオンビーム/走査電子顕微鏡(FIB/SEM)および走査型透過電子顕微鏡(STEM)法を用いた手法に加え、ネオンビームによる染色体加工の検討、ヘリウムイオン顕微鏡(HIM)の使用、およびFIBで作製した超薄切片の透過型電子顕微鏡(TEM)観察も開始した。特に、超薄切片の観察ではEDS分析を行うことで、染色体内部に明らかに白金原子が多く存在することを確認できた。これは、染色体をDNAに結合する白金ブルーにより染色しているためと考えられ、染色体内部から検出される白斑が白金に由来することを支持する結果である。また、ネオンビームを用いた染色体加工では、現在までの結果では従来用いられてきたガリウムイオンを用いた加工との差は見られていないが、ビーム照射条件の検討を重ねることで、分子量が小さいネオンビームを用いることでより精度の高い染色体加工が可能となり、染色体の微細構造の検出が捉えられることを期待している。こうした、染色体内のヌクレオソームを可視化する手法の検討に加え、検出されたヌクレオソームを一本の繊維に繋げるためのソフトウェアの開発にも着手し、そのプロトタイプを作製した。
2: おおむね順調に進展している
これまで、染色体内部から白斑構造が検出されているが、この構造が染色体断面作製時にガリウムイオン等が付着することで生じる人工的なものなのか、それとも染色体の構造を反映したものなのかが不明である。本年度に行った、染色体超薄切片の作製とEDSを組み合わせた観察により、染色体断面からはガリウムイオンはほとんど検出されず、プラチナブルー染色によりDNAに結合したと考えられる白金が多く検出された。このことは、白斑構造が白金に由来する可能性を強く示唆しており、染色体内部構造の解析において重要な情報を入手することができた。研究成果については、随時論文化を進めており、昨年度に行った構造化証明顕微鏡とFIB/SEMを用いた染色体スキャフォールド構造の決定を行った論文はScientific reportsに受理された。また、臨界点乾燥を用いた染色体試料作製が染色体構造内に空洞構造を発生させることを示した論文と、イギリスのグループと共同で進めているX線を用いた染色体構造解析に関する論文も出版した。
再現性よく染色体内部構造の観察を行うために、東レリサーチセンターのグループと協力して、FIB/SEMを用いた染色体断面構造の観察を進めるとともに、ネオンビームを用いた染色体の加工条件の検討も進める。また、染色体内部から検出される白斑を結ぶソフトのプロトタイプが完成したので、そのソフトを用いて、実際に染色体内部のヌクレオソーム繊維の走行をシミュレーションするとともに、実験データに基づいた新たな拘束条件を設けることで、より精度の高いシミュレーションを可能にすることを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 7件)
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