研究課題/領域番号 |
25253011
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研究種目 |
基盤研究(A)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
黒瀬 等 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (10183039)
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研究分担者 |
仲矢 道雄 九州大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80464387)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 線維芽細胞 / 心筋梗塞 / 線維化 / 細胞外微小環境 |
研究概要 |
心筋梗塞時には血液の供給が途絶えるために、組織が壊死を起こす。それに続き炎症反応や線維化などの一連の反応が生じる。線維化とは、筋線維芽細胞に分化した線維芽細胞がコラーゲンを産生し、このコラーゲンが細胞外で異常に蓄積した状態である。通常、線維化は組織の形態を維持させることができるものの機能を代償しないため、生体にとって好ましくない応答だと考えられている。筋線維芽細胞は多種の細胞から生じるものの、それぞれの起源が異なる細胞が筋線維芽細胞で占める割合や機能の違いなどは明らかではなかった。そこで、心筋梗塞時に生じる筋線維芽細胞が、①骨髄に由来する、②ペリサイト(周皮細胞)に由来する、③上皮細胞が転換する、④内皮細胞が転換する、⑤組織常在性の線維芽細胞が分化するという5種の可能性を検討した。骨髄由来の可能性は、CD45.2抗原を持つ野生型マウスとCD45.1抗原を持つコンジェニックマウスとの間で骨髄移植を行い検討した。周皮細胞の可能性は周皮細胞特異的な抗原PDGFR-βを用いて、上皮細胞が転換した可能性はWt-1あるいはS100A4(FSP-1)抗原の発現委より、また内皮細胞由来の可能性はCD31抗原の発現により検討した。筋線維芽細胞のマーカー分子としてα-SMAやvimentinを用いた。その結果、骨髄、周皮細胞、上皮細胞の転換に由来する筋線維芽細胞は検出できなかった。一方、筋線維芽細胞の約20%の細胞は内皮由来であった。組織常在性の線維芽細胞のマーカー分子が未だ見出されていないこと、また筋線維芽細胞の由来が5種に限られることから、約80%の筋線維芽細胞は組織常在性の線維芽細胞が分化したものと結論した。さらに、心筋梗塞時に出現する筋線維芽細胞は貪食を仲介する分子MFG-E8を分泌しており、心筋梗塞時に生じる死細胞の除去に携わっていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおよそ予定していた実験を終わっており、残された期間の実験を行うことで結論を得ることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
すでに心筋梗塞時に出現する筋線維芽細胞がMFG-E8を分泌し、死細胞の除去に関わっていることを見出している。そこで、以下の実験を行い、心筋梗塞時における筋線維芽細胞の役割を確立する。(1)筋線維芽細胞を単離し、死細胞を貪食することができるかin vitroで検討する。また、この貪食がMFG-E8依存性を示すかについても検討する。(2)マクロファージなどの貪食細胞は、死細胞(アポトーシス細胞)を貪食すると、抗炎症性のサイトカインを分泌するようになる。筋線維芽細胞がマクロファージのような性質を示すか検討する。これらの実験より、筋線維芽細胞がin vivoではマクロファージのような働きを持っていることを示すことができる。(3)MFG-E8の投与によって、心筋梗塞処置による組織傷害、炎症性サイトカインの発現、線維化、心機能などがどの程度まで回復するのかについて検討する。MFG-E8の投与によって心傷害などが回復することを示す実験は、治療を考えると重要になってくる。(4)単離した組織常在性の線維芽細胞あるいは樹立された内皮細胞由来の培養細胞を用い、筋線維芽細胞に分化あるいは筋線維芽細胞に転換によりMFG-E8が発現することを示す。これにより、筋線維芽細胞への分化・転換とMFG-E8の発現および死細胞の貪食を一連の流れの中でとらえることができる。(5)心筋梗塞によって死亡した患者の心臓切片を入手し、MFG-E8の染色と筋線維芽細胞の染色を行い、筋線維芽細胞がMFG-E8を産生していることを示す。これにより、ヒトでも筋線維芽細胞が死細胞の貪食を行っていることを間接的に示すことができる。これまで、筋線維芽細胞は、心筋梗塞時にコラーゲンを産生し組織の線維化に関わっているのみだと考えられてきた。しかし、本研究より筋線維芽細胞の新たな機能を提唱できる。
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