研究課題
心筋梗塞時には細胞の壊死により細胞からさまざまな分子が漏出され、炎症応答が引き起こされる。心筋梗塞後に生じる過剰な炎症応答が、心筋梗塞後の心臓に悪い影響を及ぼすと考えられている。したがって、効率よく死細胞を除去し、過剰な炎症を防ぐことが心臓の機能維持に重要であると認識されるようになった。死細胞の除去に関わっている分子の一つにMFG-E8と呼ばれる分子がある。すでに、MFG-E8の発現が心筋梗塞後に上昇すること、筋線維芽細胞が主なMFG-E8の産生細胞であることを見出している。MFG-E8はホスファチジルセリンとインテグリンの結合ドメインを持ち、死細胞とインテグリンを発現している貪食細胞とを結びつける働きを持っている。本年度は、MFG-E8を投与した時に、心筋梗塞後のアポトーシス細胞の数が減少すること、炎症応答(炎症性サイトカインmRNA発現で評価)が減弱すること、心機能の低下が抑制されること、線維化の程度が減少することを確認した。精製したMFG-E8を静脈中に投与した場合、MFG-E8の効果は有意な程度観察されなかったため、梗塞部位に近接する領域にMFG-E8を直接注入投与した。その結果、MFG-E8による心筋梗塞処置に対する保護効果を観察できた。正常な心臓では、これらMFG-E8投与の効果は観察されなかったことから、MFG-E8は心筋梗塞後に生じる応答のみに積極的に関わっているものと推察された。MFG-E8の効果が、アポトーシス細胞の除去によることを確認するため、MFG-E8の変異体(MFG-E8-D89E)を投与した。MFG-E8-D89Eはホスファチジルセリンには結合できるものの、インテグリンには結合できない。MFG-E8-D89Eを投与しても、野生型のMFG-E8で観察された心臓に対する保護効果は観察されなかった。本年度までの結果をまとめ国際誌に投稿した。
2: おおむね順調に進展している
予定していた実験を終わり、論文を投稿している。
投稿後のコメントを予想し、次の実験を計画している。(1)アポトーシスを起こした心筋細胞を筋線維芽細胞が貪食していることをin vivoで示す。筋線維芽細胞と心筋細胞のマーカーが重なること、さらにこれらのアポトーシスの指標であるTUNEL陽性細胞が重なることを示す。(2)MFG-E8ノックアウトマウス心筋梗塞処置していない心機能を測定する。この結果は、MFG-E8が心筋梗塞時に選択的に産生されることを支持する。筋線維芽細胞がMFG-E8を産生すること、また筋線維芽細胞が心筋梗塞時に出現することから、心筋梗塞処置していないMFG-E8ノックアウトマウスでは、MFG-E8ノックアウトの効果が観察されないと考えている。(3)MFG-E8がアポトーシスを減弱させているわけではないことを示す。単離した心筋細胞にアポトーシスを起こさせる時に、MFG-E8存在時あるいは非存在時の効果を検討する。この結果により、MFG-E8がアポトーシス細胞の除去に関わっており、アポトーシスを抑制しているわけではないと結論づけることができる。(4)TGF-βがSRFを介してMFG-E8の発現を制御していることを示す。単離した筋線維芽細胞をTGF-β処置し、α-SMA発現を検討する。この時、SRFの関与を阻害剤(CCG-1423)およびsiRNAを用いたノックダウンにより検討する。SRFの関与を確認できると予想している。(5)MFG-E8投与によって梗塞領域が減少する。治療への適用を考えると、梗塞領域の減少と心機能の改善は重要な評価項目である。心機能の改善はすでに得ていることから、梗塞領域の減少のデータも取る。これらの実験を行っておくことで、レフリーからのコメントに迅速に対応できる。また、これらの追加の結果が再投稿で要求されない場合、新たに得たデータのみで論文を投稿する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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