研究課題
電位依存性ホスファターゼVSPについて、電位センサーが中間状態を示す変異体を用いて酵素活性と電位センサーの動く程度との関係を、基質であるPI(4,5)P2の変動を、GFP融合Pleckstrin homology domainによりモニターする手法により解析した。二相性の電位センサーの動きに対応して酵素活性が二段階に変化することが示された。これはそれまでにGIRKチャネルを用いた酵素活性の定量結果とも合致しており、VSPは電位センサーの動く程度に応じて連続的な変化をすることが明らかになった。Hv1/VSOPのダイマー間の共役機構を明らかにするため、網羅的にS4とコイルドコイルの付近にインサーションを導入したコンストラクトを作成し、電気生理学的解析を行った。S4とコイルドコイルの間に挿入したアミノ酸配列の長さに応じ周期的に活性化速度が変化することから、S4とコイルドコイルが一体のアルファヘリックスをとることが示唆された。またクロスリンキングの解析をWestern blotでおこない、ダイマー内でS4同士が近接する状況が示された。更に研究分担者の中川博士、連携研究者の竹下博士との共同研究により、マウス由来電位依存性プロトンチャネルHv1/VSOPのX線結晶構造解析に成功した。様々な結晶化コンストラクトを検討し、マウス由来プロトンチャネルmHv1においてS2-S3の部分をCi-VSPに置き換えてコイルドコイルを酵母由来転写因子であるGCN4のコイルドコイルに置き換えたコンストラクトについて構造決定をすることができた。得られた構造は、亜鉛の結合状態であること、S4のアルギニンの位置が従来up状態で解かれている電位センサーの場合より、位置が低いことから、閉じた構造を反映すると考えられた。また、得られた構造からS4同士が近接するダイマー構造を示しS4とコイルドコイルが一体のヘリックスをとる構造であることが示された。
1: 当初の計画以上に進展している
研究分担者である中川敦史博士、連携研究者である竹下浩平博士と、密に連携を行い解析を行った結果、世界的にも構造決定が困難であると考えられてきた電位依存性プロトンチャネルのX線結晶構造を、世界に先駆けて、解明することに成功した。この構造は、電位センサーをもつタンパクの中で、電位センサーが下がった状態で解かれた最初の構造となった。また、静止状態を安定化することが知られてきた重金属である亜鉛が結合した構造として解けたことにより、(1)静止状態によってプロトン透過を遮断する仕組みの理解を促進、(2)S4の陽電荷とS1の陰電荷との相互作用を亜鉛が抑制することにより静止状態を安定化する仕組みが明らかになった。またこの構造が得られたことで、ダイマー内で電位センサードメイン同士が共役する仕組みとして細胞質のコイルドコイルと膜貫通領域のS4が一体のヘリックスを形成し、プロトマー同士で相互作用することが協調性の基礎となっているというこれまでの説(Fujiwara et al, JGP, 2014)も裏付けることとなった。X線結晶構造解析が成功したことで、今後、電位センサーが子共役する仕組みを原子レベルで解明する基礎が整備され、今後立体構造の情報をもとに、動的変化の詳細を明らかにする研究が可能になった。そのため、当初の計画以上の進展と判断した。
立体構造が明らかになった電位依存性プロトンチャネルについては、今後は、この立体構造に基づいてS4同士、コイルドコイル同士の界面に注目し、変異導入などの実験を行う。また、動的構造変化を理解するには、活性化状態での電位依存性プロトンチャネルの構造情報が必要であり、今後、0mVで活性化状態となる変異体について解析を進めたり、活性化リガンドとの共結晶化などを試みる。VSPについては、具体的な共役の仕組みを明らかにするため、細胞質領域の局所の構造変化を検出できる手法の導入を目指す。とくに、立体障害などをもたらしやすいGFPなどの蛍光タンパク質に代わって、蛍光性の小分子化合物を導入できる系の導入を目指し、電位センサーの構造変化に伴う細胞質側への情報伝達の仕組みについて明らかにする戦略を構築する。VSPの解析においても、Hv1/VSOPと同様に、構造生物学との連携を密に行っていく。
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