研究課題/領域番号 |
25253017
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
鍋倉 淳一 生理学研究所, 発達生理学研究系, 教授 (50237583)
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研究分担者 |
福田 敦夫 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50254272)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | GABA / グリシン / 発達期 / スイッチング / 受容体 / 障害 |
研究実績の概要 |
発達期や障害に伴って大きな機能変化を示す抑制性神経回路に関して、2つの視点からの研究を行っている。一つは、GABAやグリシン応答が脱分極(しばしば興奮性)から抑制性に発達変化する分子機構とその制御機構である。これは細胞内クロールイオンのくみ出し分子であるカリウムークロール共役担体(KCC2)の発達に伴う発現上昇に依存している。一方で、神経障害時には、KCC2の機能および発現の低下が起こりGABAの脱分極(興奮性)作用が再出現する。障害後の回復期には、KCC2の蛋白・機能発現が再上昇する。このように発達期・障害後および回復期における脳機能変化とKCC2の発現の相関関係が見られる。しかし、その因果関係は不明である。そこで、KCC2の発現を制御可能なKCC2-tetOマウス(作成済)を利用して、発達および障害回復期における脳機能変化について行動学的な評価を主な指標として検討することを目的とする。初年度は、カルモジュリン依存性キナーゼ2(CAMKII)をプロモーターとしてKCC2 tet-Oマウス交配させたマウスを作成した。このマウスにおいて、餌からドキシサイクリン(Dox)を除去すると大脳皮質や海馬の錐体神経細胞でKCC2が過剰発現されることを確認するとともに、Doxを再投与すると2週間でKCC2の発現が正常レベルまで減少することを組織染色法で確認した。また、KCC2強制発現マウスの行動実験を開始し、正常マウスと比較し多動であるとの予備実験結果が得られた。 もう一つの提案した抑制性神経回路再編はGABA/グリシンという伝達物質のスイッチングについて、伝達物質が変化すると受容体も動的な変化が起こるのかということである。グリシン伝達が開始したときのグリシン受容体がシナプス下膜に集積する過程について、培養神経細胞においてQドットを利用したライブイメージング技術の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KCC2蛋白を任意の神経細胞群に過剰発現可能なマウスの作成とその検証が終了した。また正常マウスにおけるKCC2の過剰発現による行動変化の検証を開始した。 加えて、グリシン受容体の動態を一分子レベルで観察することができる技術を構築し、シナプスとシナプス外でのグリシン分子動態の観察と解析法を確立し、次年度からの研究を推進する技術の整備を完了した。これにより、当初計画したものは概ね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
KCC2過剰発現を発達期に誘導するためのプロモーターの検索を行う。現在、セロトニン受容体タイプ1が幼若期の海馬および大脳皮質に発現していることが確認できたため、これをプロモーターとするマウスを導入し、幼若期におけるGABA脱分極を抑制し、成熟後における学習行動の変化について検討する。また、障害後にKCC2を強制発現させ障害回復過程への影響を検討することにより、GABAの脱分極による神経回路再編への影響を評価する。 KCC2過剰発現マウスはGABA・グリシン機能という抑制性伝達が強化され興奮ー抑制バランスが抑制性が優位になっていると考えていたにもかかわらず、正常マウスにおいては多動であるということは予想できない結果がえられ、今後は、これについても詳細な行動評価を開始する。 グリシン伝達開始後のグリシン受容体のシナプスへの集積を検討するため、培養神経細胞を用いてグリシン作動性シナプス下におけるグリシン受容体動態をライブイメージングでおこなうとともに、シナプス外からの側方移動と細胞内からの供給であるエクソサイトーシスのどちらかシナプス下への受容体供給の主要経路であるのかを検討する。
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