研究実績の概要 |
本研究では、サルモネラの感染分子機構解明を目的として、新規細菌病原分子エフェクターの同定と宿主標的分子間相互作用を基軸とした研究を行ってきた。先行研究において確立したin silicoインタラクトーム解析法でリスト化された5種の新規エフェクター候補のうち、今年度はSTM1239について下記の事柄を明らかにした。 Yeast Two Hybrid Systemを用いて、STM1239のマクロファー内標的分子を探索し、HO-1(heme oxygenase-1)を同定した。HO-1は様々なストレスに応答して産生され、遊離ヘムをbiliverdin, Fe2+, COに分解する。サルモネラ感染において、アポトーシス抑制作用を介して感染防御に働くこと [Zaki et al, J Immunol 182:3746-56 (2009)]、結核菌感染においては、宿主の感染防御に働く一方で病原性遺伝子群dormancy regulon の発現を誘導する等、多面的な機能が注目されているが、HO-1を標的とする病原分子は不明であった。STM1239は、HO-1標的病原分子として同定された初めてのエフェクターである。STM1239とHO-1 の相互作用は細胞内シグナル伝達系を撹乱し、サルモネラのマクロファージ内殺菌機構からのエスケープに関与すると考えられた。 STM1239の宿主細胞への輸送は、サルモネラの2つのSalmonella Pathogenicity Island にコードされる3型分泌装置(T3SS)、SPI1-T3SSとSP2-T3SSが関与することを明らかにした。STM1239とHO-1の相互作用が引き起こす細胞高次機能傷害の解明は、広範な病原細菌の新たな基本戦略理解へ向けて大きく貢献すると期待できる。
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