研究課題
我々が最近独自に報告したポリ(ADP-ribose)ポリメラーゼスーパーファミリーメンバーであるZAPS分子の新たな役割としてRNAサイレンシングの制御因子として機能する可能性が示唆されてきた.ZAPSに着目して更に解析を進め,ウイルス感染防御の今までに無いメカニズムとして,RNAサイレンシングの脱制御による“antiviral transcriptome”の活性化という新たな概念を提示したい.更に感染以外のストレス刺激に対する細胞応答時に作動するRNAサイレンシング制御因子をZAPS以外にも探索し,様々な“sub-transcriptome”の存在を追求したい.ひいては,細胞応答時のタンパク質発現誘導の基盤的な機序として知られている転写因子による制御とは別に,特定のサブセットのタンパク質誘導をもたらす新しい転写後制御機構の存在を示すことを目指している.本年度は,IFN下流で誘導されるISG mRNAsのZAPSの詳細な制御機構について解析することを予定した.ZAPSがIFN下流で誘導されるISG mRNAsの発現制御メカニズムについて解析を行った結果,ZAPSによるISG mRNAsの発現調節には,pre-mRNAの下流で,mRNAの安定性に寄与していることが示唆された.今後,ZAPSノックアウト細胞を用いた詳細な解析や,ZAPSが制御するmRNAの網羅的解析を行うことを予定している.
2: おおむね順調に進展している
本年度は,IFN下流で誘導されるISG mRNAsのZAPSの詳細な制御機構について解析することを予定した.アクチノマイシンDを用いた解析から,ZAPSは複数のISGsの安定性を制御していることを明らかにした.さらにこれらのISGs mRNAの前駆体であるpre-mRNAを測定するとその発現量に差が無かった事から,pre-mRNA下流で作用していることが示唆された.各mRNAの3’UTR領域をクローニングし,この領域をレポーター遺伝子下流につなぐことで,どこの領域を介してZAPSが制御しているか現在検討している.一方で,細胞を細胞質と核に分画し,それぞれの分画中に含まれるISG mRNAsの量を定量したところ,ZAPSのノックダウンにより大きな変化が認められなかったことから,ZAPSはmRNAの核外輸送に制御する可能性は低いと考えられた.またこれまでZAPSのノックダウンの実験系で検証してきたが,より詳細な解析を行うために,Crispr/Cas9システムを用いてZAPSノックアウト細胞を樹立した.以上の事から概ね順調に進んでいるといえる.
昨年度は,ZAPSがIFN下流で誘導されるISG mRNAsの発現制御メカニズムについて解析を行い,ZAPSによるISG mRNAsの発現調節には,pre-mRNAの下流で,mRNAの安定性に寄与していることが示唆された.さらにZAPSのノックアウト細胞を樹立した. これらのdataを踏まえて本年度は,ZAPSノックアウト細胞を用いた詳細な解析や,ZAPSが制御するmRNAの網羅的解析を行うことを予定している.(1)ZAPSと会合する宿主由来の mRNA サブセットの網羅的な同定: HITS-CLIP (high-throughput RNA sequencing of cross-linked immunoprecipitation) の アプローチを用いて,候補分子に結合/制御されていると考えられる mRNAs を網羅的に解析する. 同定されたZAPSに結合するmRNAをRNA immunorecipitation (RIP) assayを用いて検証し,この結合したmRNAの安定性にZAPSが寄与するのかについて検討する.(2)ZAPSノックアウト細胞を用いた詳細な解析: ZAPSノックアウト細胞を用いる事でZAPSが制御する遺伝子群についてマイクロアレイを用いた網羅的な解析を行いたい.さらにIFN処理をした際の抗ウイルス応答性の違いについて比較検討する.これらのdataをまとめながら論文の投稿準備を進める.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Nature immunology
巻: 17 ページ: 687-694
10.1038/ni.3422