研究課題
樹状細胞などの免疫細胞では、複数のToll様受容体(Toll-like receptor, TLR)が発現し、互いに相乗的に、あるいは拮抗的に作用しあう。複数のTLRが如何にして制御されているのか、まだ明らかではない。本研究では、TLR制御の分子基盤として、TLRロジスティックス(免疫細胞はTLRの物流を制御する事で、その活性を制御している)という概念を提案する。具体的には、Unc93B1という分子に焦点を絞る。Unc93B1は、核酸認識TLRに会合し、その輸送、局在を制御する分子である。Unc93B1が複数の核酸特異的TLRの細胞内局在を制御している分子基盤を解明し応答性との関係を解析する事で、TLRロジスティックスの分子基盤の解明を目指す。本年度は、以下の進展があった。1.TLR7の細胞表面への発現とその活性制御昨年、マウスのTLR9が細胞表面で検出できることを報告した。本年は、TLR7に対するモノクローナル抗体を作成し、TLR7も細胞表面に検出できることを報告した。さらに、この抗体はTLR7の応答を抑制できること見いだした。TLR7は自己免疫疾患に関与することが報告されている。我々は、TLR7依存性の病態を示すUnc93B1のノックインマウスにTLR7に対する抗体を投与し、病態を改善しうることも示した。この結果は、TLR7が抗体医薬の標的となり得る可能性を示している。2.TLR9によるDNA認識における、DNase II依存性DNA分解の役割DNase IIはリソソームに局在するDNA分解酵素である。我々は、TLR9によるDNA認識には、DNAがDNase IIによって分解されることが必要である事を示した。核酸認識における核酸代謝の役割を初めて示したものである。
2: おおむね順調に進展している
当初はUnc93B1に会合する分子を網羅的に同定する予定であった。実際に検索を進めたが、Arl8b以外には、あまり興味深いものが同定できなかったために、Arl8bに焦点を絞って、解析を進めることとした。一方、TLRの局在を調べるために進めていたTLRに対する抗体の作成が進展した。マウスTLR3,TLR5,TLR7, TLR9に対する抗体作成に成功し、報告することが出来た。さらに、作成した抗体を用いて、TLR7が細胞表面にも発現しており、その抗体がTLR7応答を阻害しうることも明らかとなった。TLR7依存性の病態をこの抗体が制御しうることから、TLR7が抗体医薬の新たな標的として、有望である事が示せた。このように抗体の作成をきっかけに研究計画が大きく進展した。また、TLR9がDNAを認識する際に、DNase IIによるDNAの限定分解が重要である事も明らかとなった。これは、DNA認識とDNA代謝との関係を示す初めての知見である。DNAが細胞内のどこで代謝され、どこで認識されるのか、新たな研究の方向性を示すもので興味深いと我々は考えている。我々は、DNase IIに対するモノクローナル抗体を作成しており、その抗体を用いて、DNase IIの局在を調べたところ、DNaseIIのリソソームへの局在は、DNA刺激によって高くなる事がわかった。従って、DNA代謝の速度や場所は、状況によって大きく変動する可能性がある。従って、核酸代謝と核酸センサーの両方の細胞内局在が、どのように制御されているのか、明らかにする事は重要であり、新たな研究の方向性が明らかとなった。このように、当初予定していたものの、あまり発展が認められなかったプロジェクトもあれば、予想以上に進展したプロジェクトもあった。今後は、この状況を考慮した上で、最後の1年、研究を推進していく。
当初の中心的な計画であるArl8bについては、この分子がTLR7の局在と応答にどう関わっているのか、明らかにする。すでにこの分子はリソソームの核周囲から形質細胞膜直下への移行に関わっていることが報告されている。TLR7についても、同様な細胞内移行を示しており、その移行にArl8bが関与しているという結果を得ている。そのようなArl8b依存性TLR7細胞内移行が、TLR7の応答性にどう関与しているのか、明らかにする必要がある。この点について、現在、野生型とArl8b遺伝子改変マウスを用いて、TLR7のシグナル伝達について、比較検討している。すでに違いのあるシグナル伝達分子の同定に成功しており、その経路と細胞内移行との関係について検討する。DNaseIIのTLR9応答における役割の解析から、核酸代謝が核酸特異的Toll様受容体の核酸認識に重要である事が明らかとなった。そこで以下の解析を進める。DNaseには、IからIIIまで機能している。DNaseIは血中に存在し、その欠損は自己免疫疾患を誘導することがヒト、マウスにおいて報告されている。そこで、DNaseIの遺伝子改変マウスを作成し、その自己免疫疾患の病態がどの核酸センサーによって誘導されてるのか、明らかにする。具体的には、TLR9か、細胞質内DNAセンサーということになる。そこで、それぞれのシグナル伝達分子であるMyD88,STING遺伝子改変マウスとDNaseI遺伝子改変マウスを交配することで、病態への影響を調べる。さらに、TLR7などRNAセンサーの応答におけるRNA分解酵素の役割についても検討する。TLRに対する抗体作成については、引き続き進める。特にヒトでしか機能していないTLR8についての抗体作成を進める。
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