研究課題/領域番号 |
25253033
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今中 雄一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10256919)
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研究分担者 |
長瀬 啓介 金沢大学, 大学病院, 教授 (10302415)
林田 賢史 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (80363050)
廣瀬 昌博 島根大学, 医学部, 教授 (30359806)
猪飼 宏 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70522209)
村上 玄樹 産業医科大学, 大学病院, 講師 (50549756)
大坪 徹也 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80551796)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 医療経済学 / 医療システム / 医療の質 / 医療資源 / 医療評価学 / 医療介護政策 / 地域包括ケア / ビッグデータ |
研究実績の概要 |
超高齢社会の進展、経済の低成長、財政赤字拡大のもと、より効率的で質の高く公正にアクセスが確保される医療介護保健の提供システムの大きな変革が求められる。そこで、効率的で公正な医療保健介護が提供される社会システム(以下、医療システム)の設計・再構築に資するべく、以下を目的として当研究を行ってきた。(1)地域や施設等をシステムと捉え、その医療(および介護や保健)の質・アクセス・費用そして資源等の評価指標化を開発し、各評価指標の関連要因や関係性の解析・把握すること、(2)医療の質、アクセス、費用、資源等に係るメカニズムと評価・向上のためのフレームワークを検討・開発すること。より具体的には、大規模なデータベース構築を礎に、以下の研究を進めた。 【質・アクセス・費用の指標(評価指標)化と関連要因】妥当で信頼性の高い医療の質の評価指標、治療へのアクセスやその公正性、効率性や費用の評価指標を、より広い領域で開発を進め、社会経済的な地域特性も含め包括的に検討し関連要因を明らかにしてきた。地域特性や施設要因を考慮した形で関連要因の分析や予測を行った。我が国で先陣を切って医療のパフォーマンスの地域差を明らかにし、その関連要因を示すなど、各種評価指標の媒介・関連要因(資源配備・マンパワー・集中化、症例数、人材の組織風土、マネジメント等)を定量的に明らかにした。 【質・アクセス・費用の格差のメカニズムと有効な資源配備のフレームワークの開発】医療の質・パフォーマンスに大きな地域間格差が存在することを示すとともに、その要因構造のモデルを進めた。アウトカム(死亡率、要介護度悪化率等)や医療費、アクセス等の予測のモデル化を行い、シミュレーションにて施策の影響を定量的に示した。また、限られた資源を再配備して、高い質・効率と公正性を実現する方法論や理論的枠組みについて検討・開発研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当研究は、資源配備と診療・ケアの実績との関係を定性的・定量的に評価し、その関係の媒介要因やメカニズムを明らかにすることを目的とする。施設と地域の視点から、多様なデータに基づき解析を進めてきた。以下の如く、新たな知見を生み出し、かつ、前年度成果を精緻化し、当該年度、当初の計画以上の進展を以て成果発表を行うことができた。 医療パフォーマンスの地域差を脳梗塞診療にて我が国で先んじて可視化して医療資源等との関連性を示し(Otsubo2014)、医療費と地域の社会経済因子や医療資源との関係性(GotoE2014)や終末期医療における医療の質と費用との関係(MOrishima2014)を示した。また、診療の拠点化がアクセス平等性を損なわずむしろ平均アクセス時間を改善しうることを示した(Kobayashi2014)。これらの知見は、医療の質と費用の地域間格差の要因の把握、将来予測、是正策立案に資するものである。平行して、医療と介護の質の指標化とその関連要因の研究開発をさらに進め(Kunisawa2014, Uematsu2014, Ukawa2014a, Lin2014)、医療の質と量的な人的資源との関係(SasakiN2014)を示し、質と資源との関係性を理論化した(ImanakaY2014)。さらに人的資源の組織風土や組織の指標公表決定とパフォーマンスとの関係を示した(Ukawa2014b)。その組織文化の精緻な測定のために、人材資源の機能発揮に重要な組織文化の妥当性・信頼性高い可視化ツールを開発した(SasakiN2014)。 以上は、地域特性や医療機能等を鑑みた上で、資源の集中やケアの拠点化がアクセスを損なわずに質と効率性の双方を向上させうることを示し、学術的にも医療システム再構築にも有用な知見となる。
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今後の研究の推進方策 |
医療介護のパフォーマンスとその要因構造に引き続き焦点を当て、多角的で統合的なデータベースを拡充しながら、高度なデータ解析を進める。データ処理と研究遂行において、倫理と情報保護の点で、確実で着実な対応を行う。また、研究期間の全体を通じ、研究者や臨床・政策の現場と国内外の討論・意見交換を積極的に図り、多角的な検証を以て成果の向上を図る。 (1)【施設と地域に基づくデータベース解析】では、これまでの成果を踏まえて、疾患や診療領域毎で、ならびに、医療や介護全体で、解析を進め、要因構造、時系列、地理空間、ネットワークの角度からも解析を充実させ、格差や変化の要因の構造や因果の方向性や関係性の大きさを定量的に明らかにしていく。施設間ばらつきの要因解明とともに、地域格差の可視化を進め地域因子と各指標との関係を解析する。 (2)【資源配備と質・アクセス・費用との関係の分析・モデル化】では、施設および地域レベルで、資源配備と診療・ケアの質、アクセス、費用との関係を定性的・定量的に評価する。特に、その関係の媒介要因やメカニズムのモデル化、理論化を進め、定量的な検証を行う。引き続きデータベースを規模・範囲ともに拡充しながら、分析を発展させる。 (3)【統計分析手法】においては、個票レベルデータで診療やケアの資源配備、質、アクセス、費用に係わる多面的な指標群を算出し、多変量解析や傾向スコアマッチングなどの統計的手法を駆使して潜在的な交絡や内生性を制御し、資源と各指標間の関係の分析、モデルの検証等を洗練化する。因果の構造の解明のために、構造方程式モデリング、パネルデータ分析、時系列分析など行い、施設や地域などの階層を考慮したマルチレベル分析も適用する。地域の関連資源の配備・連携や地域間公正性の分析では、地理情報システムGISも活用し空間疫学分析を行う。
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