研究課題/領域番号 |
25253052
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 尚己 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20345705)
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研究分担者 |
近藤 克則 千葉大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20298558)
尾島 俊之 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50275674)
橋本 英樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50317682)
鈴木 孝太 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (90402081)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 健康格差 / 社会疫学 / 健康の社会的決定要因 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
健康の社会的決定要因:social determinants of health(SDH)にアプローチする公衆衛生活動が重視されている。しかし、日本の高齢女性では低所得といった社会的リスクの健康影響があまり見られないなど、日本社会では、欧米を中心に蓄積されてきた既存の知見の再現性が低く、欧米産の理論の適合性に限界がある。申請者らは、2010年にSDHに関する高齢者全国調査(JAGES)を実施し、11万人の回答を得た。この追跡を行って3時点パネルデータを構築し、より妥当な因果推論を行うことで、日本やアジア諸国のコンテクストをふまえたエビデンスをつくり、日本における保健対策の在り方を探っていきたい。 2013年度に、JAGES調査第2 wave を予定通り終了した。回収数は138,293で回収率は70.8%であった。2014年度には、2010年、2013年のデータを個人単位でリンケージし、パネルデータ(N=6.2万)、2010年データにその後3年間の死亡および新規要介護認定の有無情報を付加したコホートデータ、2010年データに住民健診のデータを付加したもの(N=1万)などを新たに構築し、実証分析を進めた。 2015年度には、さらに2006年から2013年までの3時点パネルデータの構築・介護給付データ・認定データの利用による要介護状態の変化を追跡できるデータ構築のソフトを開発してデータを整備した。また2016年度に予定している第3wave調査のための調査票作成・自治体との交渉・サンプリングの準備を行ってきた。2015年度に発表した論文のいくつかは各種メディアで取り上げられた。たとえば、孤食(一人で食事をすること)と抑うつ等の発生との関係が、男性の独居者で特に高く、日本の高齢者特有のジェンダー役割の関与が示唆された。また笑いの頻度と脳卒中等のリスクが男女問わず関係していること等の結果が広く報道された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
テーマ別のワーキンググループ形式でのデータ分析と執筆を進めたこと、データの管理事務局の整備を進めたこと、整備したデータの活用が進んだこと等により、期待以上の業績が出ている。社会関係と個人の健康との関連、幼少期の社会経済状況と老年期の健康や死亡リスクの関連等について、欧米からのエビデンスとは異なる結果が見られ、申請時に想定していたように日本社会の特徴が反映している可能性が示唆された。メディア等による報道回数も昨年度以上に増加した。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は1)大規模追跡調査の実施、2)実証研究の推進、3)研究に参加している市町村への成果の実装(高齢者保健施策への反映)を進める。 大規模追跡調査については、6月をめどに対象自治体・サンプリング法・調査票が完成する予定である。その後、入札による調査会社の選定、調査の実施と作業を進め、年度内に調査データが得られる見込みである。データが得られ次第、クリーニング作業、過去のデータとの連結作業、初期分析、集計結果報告を行っていく。 実証研究の推進に関しては、上記調査の準備の傍ら、これまでに整備したデータを用いて引き続き検証を進めていく。 本年度も複数のテーマ別ワーキンググループを形成していく。小児期の虐待と老年期の健康、地域のソーシャルキャピタルが健康格差に与える影響、要介護状態の改善の社会的決定要因や地域環境との交互作用、健診データ(血液データなど)を用いた生物学的メカニズムの検証、地理情報システムGIS)を用いた生鮮食料品アクセスと健康などの各ワーキンググループを運営していく予定である。また、縦断パネルデータの扱いは複雑であるため、連携研究者を橋渡しとして生物統計家・コンピューター科学者との連携を強化する。
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