研究課題
NASHは、肥満に伴う脂肪肝から肝硬変、肝癌に進行する病態を示すが、その原因およびメカニズムは不明である。これまでに、申請者らはAIM ノックアウトマウスに高脂肪食を与えると、NASH 類似の病態、すなわち肥満に伴い、①脂肪肝の亢進、②線維化、③肝癌の発生が順次起きること、したがって、このモデルの解析によりNASH の病態メカニズムを解明できるというヒントを得た。H25年度の成果により、AIMノックアウトマウスに高脂肪食を与えて誘導した脂肪肝においては、脂質プロファイルや酸化ストレス、ERストレス等の各種ストレス、炎症の誘導はWTとほぼ同様であり、発癌の原因となるものに差がなかった。この知見から、AIM存在・非存在にかかわらず、高脂肪食負荷により肝癌の発生は誘導されるが、その後の「癌の除去」にAIMが必要である可能性が高まった。そこでH26年度はAIMによる癌細胞除去のメカニズムを探索した結果、AIMが癌細胞の細胞表面に特異的に付着することにより、補体系の活性化を介して癌細胞に細胞死を誘導し、マクロファージがそれを除去することにより肝癌を抑制する効果があることを見出した。この発見は、AIMによる脂肪肝やNASH由来の肝癌あるいはその他の癌治療の可能性を示唆し、その成果はCell Reports誌に発表した。さらに、上記結果から、肝障害や肝臓癌とAIMの血中濃度の関連性が示唆されたことから、実際にヒトにおける血中AIM濃度と肝障害・肝癌との関連性について解析を行った。肝癌を含む肝疾患患者および健常者の血清サンプルを入手し、AIMの血中濃度の大規模測定を行い、AIM血中濃度および各肝障害マーカーの値を比較したところ、肝障害が進行すると有意に血中AIM値が高くなることを見出し、AIMが新たな肝癌の血中マーカーとなり得る可能性を見出した。本成果はPLOS ONE誌に発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
H25年度に、AIMはNASHや肝癌の発生の予防に寄与しているのではなく発生した癌細胞の除去に寄与している可能性を見出したが、H26年度はAIMにより癌細胞が除去されることを明らかにした上で、さらにその除去のメカニズムを解明したことで、本研究の目的の多くが達成された。これにより肥満による肝癌誘導だけでなく、さまざまな癌の除去に対して効果があることが示され、癌の治療応用の可能性が示された。また、ヒト血中AIM濃度の解析により、AIMの血中濃度と肝障害との関連性が示唆され、脂肪肝やNASH、肝癌におけるAIM診断の有用性が示される結果が得られ、全体としてH26年度は大きな成果が得られた。
AIMは肥満・脂肪肝由来の癌の「発生」ではなく、発生した癌細胞の「除去」を促進していることから、AIMのこの抗癌作用を利用して、肝癌あるいは他の癌の治療や抑制が可能になると考え、今後はAIMを用いた治療法の開発を行う。またヒトNASH患者や癌患者におけるAIM血中濃度やAIMの状態(IgMに結合しているか、していないか等)を解析することで、NASHや肝癌とAIMの関連性を詳細に解析する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 7件)
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