研究課題
本研究は、脳脊髄液の分子動態を網羅的に明らかにするとともに、統合失調症と気分障害の脳脊髄液を用いて診断や経過判定の指標となるバイオマーカーを見出すことを目的とする。これまでに、アプタマー技術を用いた最新のプロテオミクス解析によって、212名の被験者のたんぱく質(1129分子)について定量した。その中で、統合失調症や気分障害の診断マーカー、症状判定指標となる候補分子を140同定し、26年度中に特許出願した(特願2014-102090 )。さらに、うつ病との関連で特に注目される分子としてフィブリノーゲンがあり、脳脊髄液中の上昇と脳MRIでの軸索障害を示す群は、「中枢フィブリノーゲン亢進型うつ病」というサブタイプとして切り分けられる可能性が示唆された(論文投稿・修正中)。さらに、食欲を制御するタンパクCARTがうつ病患者の脳脊髄液中で減少していることをELISAによって明らかにした(論文準備中)。統合失調症や双極性障害においても、多数の興味深い結果を得ている。さらに、安価なキットを用いて非常に多数の検体での解析を行うために、最も有望な12タンパク分子についてELISAキットによる解析を行い、アプタマーでの結果との相関を明らかにした。miRNAについては、東レ3D-Geneによる解析を行い(2019分子の網羅的解析)、バイオマーカー候補として重要な39分子を同定し、特許出願を済ませた(特願2015-008710)。miRNAとタンパク発現との相関をみたところ、多重比較を考慮しても15704ペアのmiRNAとタンパクの有意な相関を見出した(論文準備中)。これは、脳内でどのmiRNAがどのタンパク発現を制御しているか明らかにする上で貴重なデータベースとなる。なお、上記のうち170名について100万SNPsチップを用いた全ゲノム解析を終了した。
2: おおむね順調に進展している
脳脊髄液サンプルの収集は、本研究計画提出時(2013年10月)におよそ400検体であったが、その後、順調に収集を続けることができ、2015年5月には664検体(統合失調症227、大うつ病138、双極性障害101、健常者168、その他30)となった。ただし、非服薬症例は依然として少ないという問題点がある。オミックス解析については、当初の予定では、網羅的解析(スクリーニング)を行う対象は、既に収集されている脳脊髄液を供与した被験者のうち、年齢・性をマッチさせた126名(統合失調症32、双極性障害32、大うつ病32、健常者32)であった。しかし、これまでにプロテオームに関しては212名(統合失調症60、双極性障害32、大うつ病60、健常者60)、miRNAに関しては136名(順に30、16、30、60)、GWASに関しては170名(30、16、46、140)の被験者に関するデータを得て、そのデータベースを構築した。これは、いずれも当初の計画を上回る数字である。また、タンパク、miRNAについて2件の特許申請を済ませた点は大きなステップである。さらに、miRNAとタンパクの相関のデータベースを構築したことは、本研究の大きな目標の1つを達成したと考えている。ただし、本研究は、2014年10月から開始されたこともあり、得られたデータ量は膨大であるため、その解析は現段階で終了しておらず、鋭意進行中である。今後の解析によって極めて有望な分子に絞り込むことができると考えている。例えば、上記のfibrinogenは、精神医学のブレークスルーとなるのではないかと考えられ、他に炎症関連の極めて有力な候補分子を同定している。ただし、有力分子に関するELISAキットでの検討を行ったのは今のところ12分子であり、必ずしも十分とはいえない。以上から、達成度は「おおむね順調に進んでいる」と自己評価した。
引き続き、脳脊髄液サンプルの収集を行う。これまでの実績から、年間100検体以上を見込んでいる。未服薬患者、通電療法前後の患者検体の収集に力点を置く。①タンパク解析:ELISAを用いて26年度までに収集された全検体(600検体以上)を用いて定量し、バイオマーカーになるか否かについて明らかにする。ELISAが市販されていない場合は、ELISA系の構築を試みる。有力なバイオマーカー候補に関しては、ROC曲線を作成して感受性、特異性の観点から最適のカットオフポイントを設定する。②miRNA解析:26年度までに診断と関連することが示唆された分子についてTaqMan® MicroRNA Assays(アプライドバイオシステムズ)のプローブを用いて、上記の600検体について多検体検証を行い、バイオマーカーになるか否かについて決定する。有力なものについては、感受性、特異性について明らかにする。③miRNAやタンパク発現と全ゲノムデータとの関連を解析し、これらの発現を規定する遺伝子について明らかにする。④臨床との関連:われわれは、患者の臨床データについては、診断や症状評価のみならず、認知機能や脳画像データも収集している。認知機能データとしては、知能検査(WAIS-R)、記憶(WMS-R)、遂行機能のほか、prepulse inhibition(感覚運動ゲイティング機能)についてのデータを得ている。脳画像はMRIによる脳構造体積、拡散テンソル画像、MRSについてのデータを得ている。そこで、タンパクやmiRNAと、重症度、認知機能、PPI、脳画像といった中間表現型との関連についても検討を行う。大うつ病患者の通電療法前後のデータを比較し、治療によって改善する指標となる状態依存性マーカーについて明らかにする。
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Psychiatry Clin Neurosci
巻: in press ページ: in press
10.1111/pcn.12299
Sci Rep
巻: 5 ページ: 7796
10.1038/srep07796
http://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r3/index.html