研究課題
1.遺伝子相同組換えを利用した大腸上皮オルガノイドへの効率的かつ特異的な遺伝子編集技術の確立BRAF遺伝子変異をはじめとした,がん関連遺伝子変異を大腸上皮オルガノイドに対して導入するため,最新の遺伝子編集技術であるCRISPR/Cas9システムを利用した遺伝子編集技術を確立した.これまでに報告されていたのはトランスフェクション試薬を用いた低効率な手法のみであったが,我々はオルガノイド培養方法の改良,ならびに遺伝子導入にエレクトロポレーション法を用いることで,飛躍的に遺伝子導入および編集効率の向上を達成した.本方法を用いたヒト大腸上皮細胞に対する遺伝子変異ノックインにより,BRAF遺伝子変異大腸上皮オルガノイドを作製することに成功した.2.大腸鋸歯状病変オルガノイドならびにBRAF遺伝子変異オルガノイドに関する分子生物学的解析BRAF遺伝子変異は大腸serrated pathwayの初期から認められ,CpGアイランドのメチル化(CIMP)はその後の段階で獲得するとされていることから,BRAF遺伝子変異オルガノイドがin vitroでCIMPを自然獲得するか検討した.長期培養や低酸素下を含む様々な条件での検討を行ったが,in vitroでのCIMP獲得は確認されなかった.一方で,前年度に樹立したCIMPを有する大腸鋸歯状腺腫オルガノイドに対してCRISPR/Cas9システムを利用し,大腸癌において高頻度で認められる代表的な遺伝子変異を導入した.この変異導入鋸歯状腺腫オルガノイドは異種移植下にて肝転移を含めた高度な悪性形質を示し,CIMP自体が悪性形質獲得に大きく寄与していることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
当初は,大腸上皮オルガノイドに対するゲノム編集ツールとしてTALEN(Transcription Activator-Like Effector DNA Nuclease)の利用を計画していたが,その後に開発されたCRISPR/Cas9システムを用いることで,簡便かつ効率的なゲノム編集を行うことが可能となった.加えて,培養方法ならびに遺伝子導入法の工夫により,最大の障壁と考えられた正常大腸上皮オルガノイドに対する任意の遺伝子に対するゲノム編集方法を確立できた.この手法により正常大腸上皮オルガノイドに対するBRAF遺伝子変異ノックインを行い,大腸serrated pathwayの初期像をin vitroで再現することに成功した.BRAF遺伝子変異オルガノイドに対するCpGアイランドメチル化を誘導すべく様々な培養条件検討を行ったが,現在のところ異常メチル化は確認できておらず,当初予定していた異常メチル化の解明には至っていない.一方,CIMPに対する別アプローチとして,良性病変である鋸歯状腺腫から樹立したオルガノイド株に対して大腸癌で高頻度で認められる遺伝子変異を導入したところ,異種移植下にて悪性形質を示した.このことから,CIMP自体が悪性形質獲得に大きく寄与する可能性があるという新たな知見を得ることができた.
1.大腸serrated pathwayにおける異常メチル化機構の解明引き続き,serrated pathwayにおいて大腸上皮が異常メチル下を獲得する分子生物学的メカニズムの解明を目指す.in vitroの培養のみではメチル下を誘導できない可能性を考え,BRAF変異オルガノイドのマウス大腸上皮への移植,あるいは線維芽細胞との共培養等の条件を検討する予定としている.2.異常メチル化をターゲットとしたMSI大腸癌治療法の確立前年度に成功した鋸歯状腺腫に対する遺伝子変異導入による癌化を,別患者由来の過形成ポリープや鋸歯状腺腫を利用し再現性を確認する.別ラインでも同様の形質を獲得することを示し,MSI大腸癌の悪性形質におけるCIMPの寄与を実証する.これら人工CIMP大腸癌オルガノイドに対し,薬剤投与などによる脱メチル化による腫瘍増殖抑制効果を検討し,異常メチル化がMSI大腸癌の治療ターゲットとなりうることを示す.
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 14件、 謝辞記載あり 1件)
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