研究課題
基盤研究(A)
本研究では可視化癌幹細胞の網羅的遺伝子解析に基づき、生体内での腫瘍形成と宿主反応、および転移形成と転移ニッチ因子を解析することを目的としている。平成25年度研究実績として、ヒト膵癌細胞から可視化癌幹細胞をソーティングし、NOD-SCIDマウスにおいて高い肝転移能を示すことを証明し、癌幹細胞の局在特異性を見出した。さらに網羅的遺伝子解析によって、膵癌幹細胞に共通して高発現する遺伝子X1を同定した。遺伝子X1は細胞骨格の結合ドメインとセリンスレオニンキナーゼ・ドメインから構成されるユニークな蛋白をコードし、発生期の細胞移動を制御することが報告されている。我々はsiRNAを用いたX1ノックダウンによって、膵癌幹細胞の浸潤能が特異的に抑制されることを見出した。癌浸潤および転移は、膵癌患者の予後を決定する因子であり、癌幹細胞におけるX1分子機能の解明は治療応用を示唆する重要な所見である。さらにヒト肝細胞癌および膵神経内分泌腫瘍(PNET)から癌幹細胞分画をそれぞれ同定し、in vitro細胞動態の解析に着手した。肝細胞癌、PNETは典型的な血管新生を誘導することが知られているが、我々はin vivo腫瘍における定量的新生血管評価モデルを開発した。既に血管新生抑制剤(sunitinib, sorafenib)が臨床応用されており、新規モデルを用いて生体内での感受性や抵抗性の解析を進める方針である。また、幹細胞可視化トランスジェニックマウスを作成し、急性炎症に伴う可視化幹細胞の劇的な動態変化を見出しており、炎症を伴った発癌機序の解明を進めている。このように多様な視点から難治性消化器癌の克服を目指して、臨床開発に直結する研究実績を蓄積している。
2: おおむね順調に進展している
難治性消化器癌の典型である膵癌(PNETを含む)と肝細胞癌から癌幹細胞分画を同定し、その分子メカニズムを解明するデータが得られている。特に膵癌では、共通して高発現する遺伝子X1を同定することに成功した。癌転移や浸潤の関連性を認め、治療応用への発展が期待できる画期的な研究成果である。その他、生体内機序を解析する定量的新生血管評価モデルや幹細胞可視化トランスジェニックマウスの開発も進行している。
平成25年度研究実績により、ヒト膵癌幹細胞から特異的遺伝子X1同定した。今後はX1 shRNA およびX1高発現による膵癌幹細胞の転移能への作用および転移巣での局在変化を解析する。さらに、X1 shRNA およびX1高発現株の網羅的蛋白解析によって特異的基質を解析して、転移機序を同定する。また平成25年度研究実績により、生体内における定量的新生血管評価モデルを開発している。今後は、抗血管新生治療抵抗株の作製によって幹細胞性遺伝子群の変化と血管新生ニッチとの関連を解析するとともに、膵神経内分泌腫瘍(PNET)癌幹細胞に対する新たな分子標的治療を開発する。幹細胞可視化トランスジェニックマウスは、発癌と炎症モデルを用いて宿主反応と癌幹細胞の分子および細胞間の相互作用を時間的かつ空間的に解析する。既に京都大学iPS研究所・川口義弥教授との連携研究を開始しており、新規癌治療および再生医療への応用展開を推進する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)
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